ぬいさんの作品

プラトニックガール

投稿:ぬい:2010年9月1日

『男女交際は、清く正しく美しく』。あきら(in桃井)は付き合い始めに、千本木に対しこう言った。
あれから数ヶ月。いい加減、千本木も苛立ちを隠せなくなっていた。

「なぁ、あきら…」
「ん?」
「…そろそろ、俺達進展した方がよくないか?」
「…むっ…ぐ!!!」
さきいかをもぐもぐさせながらテレビを見ていたあきらが、千本木の言葉にむせる。ゲホゴホと咳き込む彼(身体的には彼女)の背中を摩ってやりながら、千本木は続けた。
「あきら。何で俺達はこんな熟年夫婦みたいになってんの?」
まだキスまでしかしてない関係なのに、さっきのお前の姿はまるで昼下がりのオバサンだった。そう言うと、悲し気な顔で溜め息をつく。
「オ、オバサンって。そんなの…昔からの付き合いだからだろ」
「付き合いは長いけど、それは男友達としてだろう?こうして今は男女の付き合いをしてるんだから、少しは気にしろって」
「わっ、悪かったな。千本木といると、つい気が緩んじゃうんだよ」
口元を拭いながら言葉荒く謝罪する。
「ふぅん?それはそれで嬉しいけどね。俺の前でだけだもんな。素の自分でいられるの」
千本木がニヤニヤと笑う。
「で、でもさ。まだそんな大人の階段を昇るのは早すぎるんじゃないかな」
「何言ってんだ。桃井だってお前の体でもう色々済ませてるだろ」
「…っう」
千本木の何気無い言葉に、あきらは涙を浮かべた。それを見て、千本木もやってしまったと慌てる。
「あ…悪い、あきら。泣くなよ」
「ひ、酷いよね…。僕の体なのにさ…」
僕の気持ち知らなかったのもあるかもだけどさ、あまりにも無茶しすぎだよ…と、涙をボロボロ流す。
千本木もその心情を察して、頭を撫でてやった。
(こいつ、本当に純粋だもんなぁ…。好きな女にも一途だったし、エロ本なんかも全く読まなかったし、今だってこうだし…。本当に…)
本当に、可愛い。

千本木の心がキュンキュン(笑)して、思わずあきらを抱き締めた。
「せっ、千本木!?」
あわあわと腕の中で焦るあきら。それを千本木は離さなかった。
「あきら。俺は本当にお前が好きだし、大事にしたい。だからこそ、心だけじゃなく体も繋がりたい」
「ちょ…」
その言葉にまた危機感を感じたのか、体を必死によじる。だが、男の力に敵う筈もなく、殆ど無意味な行動になってしまった。



それにまた愛しさを感じるのだが、千本木も実は理性を保つのに必死だった。
「ただ、お前がどれだけ純粋なのかも知ってるし、後戻り出来なくなる恐怖を感じているのも分かる」
「千本木」
「だから、さっきはゴメン。やっぱりお前が決心つくまで俺は待つよ。いつまで保つか分からないけど…まぁ頑張るし」
この言葉を伝える為に。

千本木は凄い。今までだって十分お預けをくらっているのに、それでも尚自分の為に待ち続けると言うのだ。年齢的に、我慢なんてかなり厳しいだろうに。
「まぁ、そう言うことだから」
そう言って漸くあきらを解放した彼は、にっこりと笑う。

(…馬鹿。無理してるんだろ)
心の中で千本木の強さと弱さを感じたあきらは、彼に抱きついた。驚いた千本木は思わず尻もちをつく。
「ちょ、あきら!?」
あきらに押し倒されているような状態。この体勢はヤバいと判断した千本木は、彼を退かそうとした。
が、彼は意地でも離れないと言った感じで、一生懸命千本木に抱きつく。
「…馬鹿。千本木の馬鹿。もういいよ。僕の負け」
「あきら?」
「僕ももう桃井さんのこと諦めてるし、千本木のことは本当に好きだし」
「あきら」
「だから、もう元の体に戻れなくていい。この決意を、千本木から、僕の心とこの体に刻みつけてほしい」
どうせ桃井さんも、椎名さんの為に元には戻らないんだろうしさ。


「…あきら、いいのか?」
「うん」
本当は心臓が爆発しそうな程動いている。でも、この決意が薄れない内に…。

いつものより甘いキスを交した後、千本木の手があきらの胸へと向かった。
「…ん」
ピクンと体が一瞬跳ねる。


——ああ、父さん、母さん…あきらはこれから女になります…。


瞼をキュッと閉じて、覚悟を決めた。しかし。


「………」
それから千本木が何もしてこない。
不思議に思って、瞼を開き彼の顔を見る。いつもの優しい瞳とぶつかった。
「どうしたの?」
「あきら、この続きはまた今度にしよう」
「え?」
よっ、と掛け声を出すと、千本木は立ち上がった。あきらは呆然と座ったまま。何で?と瞳で訴える彼に、千本木は笑って言った。
「お前、服越しにでも分かるぐらい心臓バクバク言いすぎ」
「!!」
恥ずかしくなって、顔に血が上る。恥ずかしくて、熱くて、死にそう。



「だ、だけど…今しなかったら、また僕逃げちゃうかも」
ボソボソと呟くように言うと、千本木が意地悪そうな顔で言った。
「うん。だから、決めちゃおう。次のお前の誕生日に…って」
逃げ道を作るわけないだろう?とでも言わんばかりの口調に、あきらは口を閉じてしまう。
拒否権はない。次の誕生日、僕と千本木は——。
「わ、分かったよ」
考えちゃいけない。考えたらまた一人でパニックになる。だから自分にその暇を与えず、返事をした。
千本木は何も言わず、ただ微笑んだ。





——僕の誕生日まで、あとひと月とちょっと。




【あとがき】
前作『ねぇ、好きだと言って』の続編っぽいですが、それを意識したつもりはありません(笑)。なので、これの続編も多分ありません。だって、エッチなの書けないし(笑)

しかし、前にも言いましたが、原作が萌え萌え過ぎるから何を書いても駄作になりますね。森永先生は天才です。
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