ぬいさんの作品
ねぇ、好きだと言って
投稿:ぬい:2010年9月1日
ここのところ毎日一緒に帰っている。バイトがある時はバイト先まで送ってくれる。僕が男だった時から仲は良かった。今も色々相談に乗ってくれる。本当にいいヤツだ、と思う。
「あきら?」
「えっ!な、何?」
何だよ、ボーッとしてる時に名前を呼ばれたら驚くじゃないか。しかも、千本木はいつも顔を覗き込むようにしてくる。…この角度と距離感、今までにはなかったよなぁ。
(何かドキドキする…あぁ、暑いからかな。もう夏だし…)
「…はぁ。また桃井のこと考えてたんだろ」
「え!?ち、違うよっ!」
「じゃあ何。さっきから話し掛けても上の空だし」
「えっと…えっと……あっ!ほら千本木、あそこにアイス屋さん出来たんだね!?いや〜、今日暑いもんね。僕買ってく…っ!!」
何とか誤魔化そうとしたのに、千本木の行動の方が速かった。いつもこうだ。離れようとした僕の腕を掴んで離さない。痛くはないんだけど…。
「逃げるなよ、あきら。桃井のことじゃないなら、何を考えていたんだ?」
「うう…」
なんでこんなに意地悪なんだろう。僕が桃井さんの体になってから、全然態度が違う。
「あきら」
そんな声で呼ぶなよ…。僕だって今一生懸命頭を回転させているんだ。でも出せる答えが見付からないんだ。だって千本木のことしか考えていなかったんだから。
「せ…千本木の、こと…」
ああ、熱にやられちゃったのかな。素直に言い過ぎだろ、僕…。こんなこと言ったらつけ上がらせるだけなのに。
そらしていた視線をチラリと千本木の方へ向けると。
「あきら…」
ほら、キラキラしてる。ちょっと可愛いとか思っちゃう僕も僕だけど。
「なぁ、キスしていい?」
「………千本木……」
全く、呆れるよ。ここは道端なのに。
「無理だってば」
当然の返事をしたのに、指をくわえて恨めしそうな顔をする。どこまでキス魔なんだか。
でも、何だか今日は不思議な気持ちだ。さっきから、千本木の顔を見れば見る程、心がふわふわした感じになる。何て言うんだろう…優しく、素直になれる気がする。何となく、だけど。
もしかしたら、僕の中で、もう答えが出てるのかなぁ…。
「じゃあ、好きって言って?」
千本木の声に、現実へと引き戻される。
「…好き?」
「うん。付き合ってはいるけど、まだ俺その言葉貰ってないから」
そう言えばそうだった。お付き合い宣言をしたのは僕だけど、そんな類の台詞は言ったことがない。
「………」
でもやっぱりそれを言うのは躊躇われる。僕の頬も熱い。緊張のせいか、熱気のせいか……ああ、そうだ。暑さのせいか。そのせいにしてしまえばいい。
ズルいなんてことは分かってる。でも今の僕にはこれでイッパイイッパイなんだ。
口をちょっとだけ開く。大声でなんか言えるもんか。目だって合わせてやらない。斜め下にうつ向いたまま、小声で。
「すっ……好き、だよ。千本木…」
「…………」
「………?」
「…………」
「千本木…?」
何だろう、様子が変だ。見れば、千本木が顔を覆っている。
「どうしたの!?具合悪いの!?」
「いや…違…」
「暑さにやられたのかも…ちょっと待ってて、誰か人を…」
そう言って、さっき行こうとしたアイスショップへ走ろうとした。その瞬間。
僕は、もの凄い力で抱き締められた。僕の(正確には桃井さんの)長い髪が、ふわりと動いた。
「あきら……俺、今すっごい幸せ。ありがとな…」
「………っ」
僕を包む腕に、更に力が入る。ちょっと苦しいけど。でも…何だか僕も、幸せ、な気分かも。
——うん。今確信が持てたよ、千本木。
(やっぱり夏の暑さなんか関係なかったよ。僕は、千本木が本当に好きなんだ。桃井さんへの気持ちは本物だった。だけど、それ以上に…)
何かもう、周りの視線も気にならなくなってきた。あーあ、これで僕もいわゆるバカップルの仲間入りか。
不思議だよね、千本木。僕らは男の子同士であって、男の子同士じゃない。とってもおかしな関係だけど、それでもこうして幸せを感じることが出来るんだ。
だからさ、もっと僕に幸せをちょうだい。
「…千本木」
「ん?」
「…ねぇ、千本木も好きって言って?」
——この夏。僕は漸く、自分の本心を受け入れた。
【あとがき】
×××は原作だけで十二分に萌えられるので、自分で改めて書くのは気が引けました。でも千本木×あきらが大好きすぎてどうしようもなかったのです。
ちなみに千本木もかなりタイプです。カッコイイ☆
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