サイドストーリー

もう一人のサンタクロース

投稿:もえじろ:2009年12月24日 更新:2010年1月10日
 Page : 1 / 5 
あなたはサンタクロースを信じますか?

「それじゃぁ、クリスマスイブは菜々子ちゃんちに4時に集合ね!プレゼントも忘れないでね。」
授業も終わって放課後、あたしと菜々子ちゃん、上原君と千本木君で机を囲む。
あたしがこの場を仕切るのには、ワケがある。
「イブは本当なら上原君と二人きりの方がいいんだけど、二人だと絶対にお兄ちゃんのジャマが入るから、菜々子ちゃんたちと一緒にいた方がゆっくりできるし、みんなでクリスマスを楽しみたい。」
って上原君には説明したんだけど、本当は……。

あたしは菜々子ちゃんの耳元で囁くようにたずねる。
「菜々子ちゃん、プレゼントのマフラー進んでる?」
「うーん、なんとか間に合うとは思うけど、編み目もバラバラでちょっとカッコワルイかも…。」
「大丈夫だよ。千本木君、菜々子ちゃんのお手製ならきっと喜ぶよ!」
「椎名は?もうできちゃった?」
「あたしももうちょっと。上原君、喜んでくれるかな?」
上原君に視線を向けると、その先の窓の外の景色が目に入る。
「あっ、雪降ってきたよ。」
みんなで窓際に移ると、降り始めたばかりの雪を眺める。
「…ねぇ、サンタクロースって本当にいるのかな?」
あたしはみんなに質問を投げ掛けた。
「上原君は信じる?」
「お前いくつだよ。そんなの信じるかよっ。」
「ひどーい…。千本木君は?」
「そうだなぁ。小さかった頃は来てくれたけど、最近は来てくれないな。でも今年は来てくれるかもな。」
千本木君らしいなと小さく笑いながら、残った菜々子ちゃんにも聞いてみる。
「菜々子ちゃんはいると思う?」
「え、えーと、いるんじゃない?みんなの心の中に。」
「だよね。やっぱり菜々子ちゃんはわかってくれると思った。」
「なんだよ。椎名がいるって言うなら俺もいるにする。」
「……上原君ったら、もう…。」
菜々子ちゃんと千本木君があきれた顔で見てるじゃないの…。

それは1週間前のこと。
体育の授業が終わり、更衣室で着替えながら
「じゃぁ椎名、あたし日直で次の授業の支度があるから、先に行ってるね。」
「うん。」
菜々子ちゃんが急ぎ足で更衣室から出て行くのを見ながら、あたしも自分の着替えを片付けていると、床にキラッと光る物が落ちていた。
「……菜々子ちゃんってば。」

「千本木君。」
「椎名さん?なに?」
「…これ。」
「これは…、桃井のネックレス。どうしたの?」
「千本木君が菜々子ちゃんにプレゼントしたんだよね。」
「………。」
「菜々子ちゃんには『大事なモノなんだから大切にしないとね』って前にも言ったんだけど、もう、菜々子ちゃんてばだらしないんだから…。」
「でもなんで俺に?桃井に持っていけばいいのに。」
「でね。」

「…よし、椎名さんのその計画に乗るよ。でもいいの?せっかくのクリスマスイブなのに?」
「上原君?うん、なんとかする。親友の菜々子ちゃんのためだからね。」
「あ、でも千本木君、菜々子ちゃんをあまりきつく叱らないでね。」
あたしのお願いに、千本木君は目を伏してため息を吐きながら答えた。
「…わかってる。」

 Page : 2 / 5 

「……どうしよう、見つからない…。」
僕は家に帰って着替えようとした時に気がついた。
千本木からもらった大事なネックレス。
あの時からいつも首から下げていた…。
はずした時もなくさないように、いつも決めた場所に置くようにしていたのに。
やっぱり体育の授業の後に更衣室に置き忘れたのかなぁ。明日早めに学校に行って探さないと。
いつもより早い時間にベッドに入ったけれど、もし見つからなかったらと思うとどうしても寝付けない。
自然と目頭が熱くなる…。

「もう起きて支度しなくちゃ。」
ほとんど眠れなかった。
そのせいで朝食の焼き魚も焦がしちゃうし。おじいさんの分だったけど。
本当は学校には行きたくなかったけど、ネックレスを探さなくちゃならないから、重い足を引きづりながら学校に向かった。

「お早う!」
後ろからいつもの声がかかる。
「お、お早う。」
千本木にわからないように、背を向けるようにしながら答えた。
「ん?どうかした?」
「ううん、なにも。」
気まずい雰囲気を悟られないようにと焦るほど、かえって不自然さが目立ってしまう。
「ごめん。僕ちょっと用があるから先に行ってる。」
僕はこの場から逃げるように走り去った。

結局、ネックレスは見つからなかった。
僕は教室の机に顔を伏せて、今にも泣き出しそうな気持ちを抑えていた。
「菜々子ちゃん、お早う。」
「………お早う。」
絞り出すように小さく答える。
「…どうしたの?菜々子ちゃん?」
「………。」
「ちょ、ちょっと、菜々子ちゃん!」
「椎名ぁ───っ!!」

あたしは菜々子ちゃんをいつもの階段の踊り場に連れて行き、二人で階段に腰掛けた。
「…そうなんだ。でも見つからないんでしょ。千本木君に正直に話すしかないよ。」
菜々子ちゃんは肩を落としたままうつむいている。
「もう、大事なものなんだから大切にしないとってあれほど言ったのに。」
「……ごめん。」
あたしの顔を見上げながら謝るんだけど、その目に涙いっぱい溜めちゃって…。
「わかった。あたしも手伝ってあげる。だからほら、元気出して。」
「………。」
「そうだ。来週のクリスマスイブに千本木君にプレゼントを渡すの。プレゼントは、うーん、やっぱり手編みのマフラーかなぁ。私も今編んでるから菜々子ちゃんにも教えてあげる。心を込めたプレゼントを渡した後に言えば、千本木君も怒りにくいよ。大丈夫。私も上原君誘って、近くにいてあげる。」
「でも椎名、イブは上原君と二人の方がいいんじゃないの?」
「なに言ってるのよ。親友が困っているんだから、助けてあげるのが当たり前でしょ。」
「椎名……。うん、ありがと。」
菜々子ちゃんの表情が少し明るくなった。
「じゃぁ、早速今日から編みはじめなくっちゃ。間に合わないよ!」

 Page : 3 / 5 

クリスマスイブ当日。
今日は学校も半日で終わり、午後からあたしは菜々子ちゃんと近くの雑貨屋さんでラッピングペーパーとリボン、テーブルに飾る小さなクリスマスツリーを、スーパーではパーティ料理の材料を買って菜々子ちゃん家に向かった。
「ほら菜々子ちゃん、こっちにサラダ盛りつけて、こっちはローストチキン、…どうしたの?」
やっぱり菜々子ちゃん元気ないな。千本木君にどう謝ればいいのかわからないんだろうな…。

「あっ、雪…。」
あたしは窓辺に行き菜々子ちゃんを呼び寄せると、落ちてくる白い結晶を二人で眺める。
「今日はホワイトクリスマスだね。」
菜々子ちゃんに声をかける。
でも菜々子ちゃんは空を見上げたまま、なにも答えない。
あたしも雪の舞う空を見上げ、菜々子ちゃんの返事を待った。
どれくらい経っただろう。菜々子ちゃんは空を見上げたまま話しだした。
「…なくしたネックレスのペンダントヘッド、この雪と同じ結晶でできていたんだね。」
「……そうなんだ。」
「この雪のひとつひとつがサンタクロースからの贈り物ならいいのにね。あたしのもサンタクロースが持ってきてくれないかな……。」
「この雪にお願いしてみれば?菜々子ちゃんの祈りはきっとサンタクロースに届くよ。」
「…うん。」
あたしの言葉に菜々子ちゃんは小さく微笑むと、空を仰ぎ両手をあわせる。
そしてなにか口にしていたけれど、それはあたしには聞き取れなかった。

人の気配がしたので窓の外に目を向ける。
「…あたしたちのサンタクロースも来たみたいよ。菜々子ちゃん知ってる?『恋人がサンタクロース』って曲。」
「……この時期の定番曲だよね。」
「そう、そのサンタクロースが菜々子ちゃんのお願いを聞いて、プレゼントを持ってきてくれるの。」
「………。」
「じゃぁ、サンタクロース二人も着いたからそろそろ始めましょうか?」
返事はない。
こんなに緊張してたらちゃんと話もできないし、ここは元気づけなくちゃ。
「…もう、菜々子ちゃんらしくないぞ。以前の菜々子ちゃんならくよくよしたりしなかったのに、好きな人ができるとこうも変わっちゃうのね。」
「……椎名も上原君好きになって、前とは変わった?」
「え?うーんそうねぇ、積極的になったかな。前はちょっと引っ込み思案だったからね。なんかまるで菜々子ちゃんとは反対だね。」
そう話しながらあたしは窓を開けようとするけど
「…あれ、窓、開かないよ?」
「え?うん、ちょっと動きが悪くなってるから、おじいさんに直してって言ってるんだけど。」
菜々子ちゃんが動きの悪い窓を開けると、あたしは二人に向かって手を振る。
「上原くーん、千本木くーん、待ってたよー。」
「…椎名、ホント積極的になったよね。うらやましいな…。」
「なに言ってるのよ。大丈夫。サンタクロースはだれにでも優しいんだよ。」
「…うん。ありがと、椎名。がんばってみるね。」
あたしの言葉に少し元気になったかな…。
「それじゃ、始めましょうか。」
「うん。」
菜々子ちゃんは開けた窓を閉めようとするけど、窓の鍵がしっかりとかからない。
「あたしからもおじいさんに言ってあげる。あたしの言うことなら聞いてくれるでしょ?」
「あはは、お願いします。」
よかった。やっと笑顔が戻ったね。

 Page : 4 / 5 

パーティ中も菜々子ちゃんはあたしの隣を離れない。
上原君にもっと離れろって何度も言われて、その時は少し離れてもまたすぐに近くに寄ってくる。
千本木君はその理由を知っているから何も言わないけど、時々菜々子ちゃんを心配そうに見ている。
その千本木君のグラスが空いているのに気づいた。
「菜々子ちゃん、WHITE BEARまだあったよね。冷蔵庫から持ってきてくれる?」
「うん。」
菜々子ちゃんがあたしの隣から離れたのを確認して、千本木君に小声で話す。
「…このあとは菜々子ちゃん、お願いします。」
「あぁ。」

「…それじゃぁそろそろ、プレゼント交換を始めましょうか!交換する相手は決まってるよね。」
椎名さんの掛け声に俺はバッグからプレゼントを取り出した。
それをテーブルの上に置いて前を向くと、あきらがリボンでラッピングしたプレゼントを持って立った。
緊張しているのか少し青ざめている。
「…あ、あの、プレゼント何がいいかわからなくて、椎名さんに聞いて同じものにしちゃった。あまりいい出来じゃないけど……。」
目をあわせることなくうつむいたままプレゼントを差し出す。
俺はそれを受け取ると聞き返した。
「開けてもいい?」
「う、うん。」
リボンを解きラッピングをきれいに開いていく。
その中には真っ白な手作りのマフラー。
俺はそれを手に取りしばらく眺める。初めてにしては上手にできていると思う。きっと夜遅くまでかけて編んでいたんだろう。
でも俺はマフラーを突き返す。と同時に、やさしく言葉を投げかける。
「掛けてくれる?」
あきらは驚いて俺の顔を見上げる。
すると今までの緊張が解けたのか、それまで強く握りしめていた手を緩めてマフラーを受け取ると、両手に持ち、俺の首にそっと掛けた。
「ありがとう。今までで一番うれしい。」
あきらは照れながらやっと笑みを見せた。
でもそれは一瞬で、またすぐに目を伏せて話しだす。
「…あ、あの千本木、僕あやま…」
「その前に俺からのも受け取ってくれよ。」
すかさずあきらの言葉をさえぎり、俺からのプレゼントをあきらの手に持たせた。
「開けてみて。」
俺の言葉に促されて中から取り出したのは、両手の上に乗るほどの大きさの蓋付きの木製ボックス。
それは蓋の上部と側面に金飾りの装飾を施したクラシックなデザイン。
「……きれい。これって…?」
「ジュエリーボックス。蓋を開けて中に指輪とかネックレスをしまっておくんだよ。」
「えっ!」
声をあげると、あきらの顔色がみるみると青ざめていく。
視線をそらしたまま、言葉を選んでいるのがわかる。
「………あ、ありがとう。すごくうれしいよ……。」
後ろにいる椎名さんに助けを求めたいようだが、椎名さんたちもプレゼント交換で盛り上がっていて、とてもそんなことを頼める状態じゃない。
ボックスを持つ手が小さく震えている。
あきらの手元には、この中に入れるはずのネックレスはないのだから。
でもあきら、心配するな。
「なぁ、ボックスの蓋を開けてみて。渡したいものがあるんだ。」
その声にあきらは息をのんだ。
そして右手を蓋に添えゆっくりと開ける。
「………、なにもないけど。」
「なに!?」

その時!
窓がガタガタと揺れ始め、バンッ!と大きな音を立て窓が開くと、細かい雪と強い風が一気に部屋の中に吹きつける。
「キャー!!」
「椎名さん!伏せて! あきら!早く窓を閉めろっ!」
「お、おう!」
俺は声を上げて桃井に指示を出す。目の前のあきらをかばうように抱きしめながら。
桃井は動きの悪い窓をやっとの思いで閉めると、そのまま外の様子を見ながら動きが止まった。
俺もその窓の外を飛び去る影に釘付けになった。
「…まさか………。」

 Page : 5 / 5 

「…もう、大丈夫?」
あたしはテーブルの下から顔を出しながら千本木君にたずねる。
「……あ、あぁ大丈夫だよ。びっくりしたね。」
いつも冷静な千本木君がこんなに驚いている姿初めて見た…。
でもこんな状態でも菜々子ちゃんをしっかりと守っていて。
なんか、ちょっとうらやましいな。
あたしは二人の様子を見ながらテーブルの下から出て立ち上がると
「あれ?なにこれ。こんなのあったっけ?」
テーブルの上に飾られたミニツリーには不釣り合いな大きさの靴下と、クリスマスカードが掛かっている。
そのカードを手に取ると、そこには「To NANAKO」の文字。
「これ、菜々子ちゃんへのプレゼントみたいよ。ほらっ。菜々子ちゃんってば!」
「う、うん。」

椎名さんに言われて僕は靴下の中をのぞくと、中にあった小箱を取り出した。
赤と緑のリボンで飾られたその小箱は、まるで今まで外にでも置いてあったかのように冷たい。
僕はリボンを解き、箱を開ける。
「あっ!」
真っ白な真綿に包まれたそれは、銀色に輝くネックレス。僕がなくした…。
僕はおそるおそるネックレスを手にすると、その下には折りたたまれた紙片が。
それを開くと微笑むサンタクロースの顔が描かれたメッセージカードだった。
添えられたメッセージには
「Is the lost article a crystal of this snow? (落とし物はこの雪の結晶ですか?)」
僕はカードのサンタクロースに向かって小さくつぶやいた。
「……はい、これです。ありがとう。僕のサンタクロース。」

翌日、クリスマスの朝。
「あっ、菜々子ちゃん、千本木君、お早う!」
あたしは登校したばかりの二人に声をかける。
菜々子ちゃん、千本木君といっしょに学校来たんだ。千本木君は菜々子ちゃんからのマフラーしっかりと巻いてるし。
二人はカバンを席に降ろし、あたしたちのいる窓際に来ると
「…だから、サンタクロースをほんとに見たんだってば!」
「上原君、もう昨日の帰りからずっとこればっかりなの。この前はいないって言ってたのに。千本木君もなんか言ってやってよ。」
「いや、俺も見たよ。この前言った通り、やっぱり今年は来てくれたよ。」
「んもう、千本木君までっ。もしかして菜々子ちゃんも見たの?」
菜々子ちゃんはチラッと千本木君の顔を見ると
「…うん。」
昨日までの顔と違って、すごくうれしそう。
って、それじゃぁ見てないのはあたしだけ…なの?
「椎名も見たでしょ?」
「えっ?」
驚くあたしの顔を見て、菜々子ちゃんはあたしの耳元に手をあて囁いた。
「恋人がサンタクロース。」
「あっ、うん!」

「…椎名、ありがとう。椎名がいてくれたから、あたしも素敵なプレゼントもらえたよ。」
そう話す菜々子ちゃんの胸元には、菜々子ちゃんのサンタクロースから授かった雪の結晶でできたペンダントが輝いていた。

クリスマスバナー画像は無料素材倶楽部様のクリスマス素材を利用させていただきました。

このお話のアイデアは、6巻44話であきらがネックレスを首にかけて千本木にあうシーンから、もしこのネックレスをなくしてしまったら、、、というのが浮かび、でもそのままネタ帳に記したまま放置していたのですが、今回サンタクロースを登場させるというアイデアが浮かび、この2つをあわせたらと思い、できあがったものです。
今まであまり出番のなかった椎名と桃井も登場させ、特に椎名には今回ちょっと意地悪だけど、でもあきらをちゃんとサポートする大事な友達として、また菜々子はサンタクロースを目撃するという重要な役目を与えました。おかげで今までのものの2倍の長さになってしまいました。。でもそのぶん、読み応えのある作品になったんじゃないかなーと思います。
どうかみなさんの感想を、ぜひ聞かせてくださいね(^^)
あ、あと英語間違ってたら教えてください。あってるのか自信ない。。

この作品、いいな と思われたら 拍手 をお願いしますね
現在の拍手数:297
前
とある小春日和の休み時間【みみさんへのお礼SS】
カテゴリートップ
サイドストーリー
次
衣替えと秋の訪れ

感想などありましたら気軽に書いてね☆

題名
お名前   :
投稿本文
コメント専用会議室へ移動する

いただいた感想一覧