サイドストーリー
クリスマスキャンドル
「あきら、明日お前のバイト先に行ってもいい?」
「ダメ!」
「なんでー。お前のサンタ姿見たいのに。」
「だからダメなんだってばっ!!」
バイト先でもこの時期定番のサンタ姿で接客をすることになって、僕と椎名さんも揃って仕事をしている。
桃井さんもサンタ姿を見たいって椎名さんに話したらしいけど、以前二人ともお店でヘンなことをしたから来てほしくないんだよね。
「じゃぁどうしたらあきらサンタ、見れるんだよ。」
「見なくたっていいよ。」
「ちぇー、すごく楽しみにしてたのに…。」
「……それじゃぁ、僕の頼み、ひとつ聞いてくれる?」
「何?」
「…あのね………」
「お前、最近やけに積極的だな…。」
「な、何言ってるんだよ。なんか勘違いしてないか?」
「まぁいいや。俺だってうれしいし。」
千本木の落ち着いた笑いが少し引っかかったけど、これで去年みたいなことはないからいいや。
クリスマスイブ。
学校が終わると僕は早々に帰宅して支度を始めた。
母さんみたいにまだ凝った料理はできないし、予算もないから簡単にできる料理を盛りつけて、でも少しは雰囲気が出るようにローストチキンとノンアルコールのシャンパン、テーブルを照らすキャンドル…。
今ごろは家でも母さんが自慢の料理を作ってるんだろうな。美羽が横でつまみ食いしたりして…。
クリスマスは毎年家族で過ごすのが当たり前だったのに、去年は桃井さんと入れ替わったばかりでなにもできなかったし、おじいさんは町内会の忘年会でいなかったから、ひとり部屋で泣いてたな。
今年は千本木がいてくれるから、少しは気がまぎれる…。
<ピンポーン>
「はーい!」
玄関に走り寄りドアを開けると、ロングコートをはおった千本木が立っていた。
「…ど、どうぞ。寒くなかった?」
「全然!お前と一緒にクリスマスを過ごすんだから、こんなのなんともないって。」
「……そうですか。」
やっぱりなんか勘違いしてそう……。
コートをハンガーに掛けながら
「なんでコートの下はジャケットなの?」
「どうせお前のことだから、雰囲気出そうとしてシャンパンにキャンドルとか用意してるだろ。それに答えるのに普段着じゃ失礼だから。」
「あはは……。」
僕は千本木をダイニングに通すと
「やっぱりな。」
千本木は僕の顔を見ると、ニヤッと笑いながら席についた。
「俺もシャンパン持ってきたから、冷やしといてくれよ。」
「いい?」
「いいよ。」
キャンドルに火を灯し照明を落すと
「メリークリスマス!!」
千本木が声をあげ、シャンパンの栓を飛ばした。
グラスにシャンパンを注ぎ、お互いそのグラスをかざすと小さな音が響く。
「まさか、あきらから誘われるとは思わなかったよ。」
「…毎年クリスマスは家族で過ごしていたんだけど、去年はひとりぼっちだったから……。」
「そうか、でももう大丈夫だな。俺がいるから。」
「はいはい、そうですね。ほら、料理も食べてね。」
確かにそうだね。千本木がいてくれるから…。
「あれー、もうシャンパンないの?千本木の持ってきたのも飲む?」
「もちろん!」
「ほら、あきらもどうぞ。」
「うん。ありがと。」
おいしー!
「千本木、これおいしいね。よくこんなの知ってるねぇ。」
「あぁ、姉貴に教えてもらったから。」
「…あの、もしかしてこれお酒…なの?」
「おいしければ別にいいだろ。桃井の体ならどうせ酔わないし。」
そりゃそうかもしれないけど……。
千本木のうれしそうな顔を見ていたら、少しくらいはいいかな…なんて。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
「で、あきらサンタの出番はまだなのかな?」
やっぱり覚えていたか。
「…しょうがないなぁ。ちょっと待ってて。」
僕は自分の部屋に戻ると、バイト先から持ってきたサンタクロースの衣装に着替えた。
姿見の前でおかしなところがないか、前後ろを何度も見て、赤いサンタ帽からの髪も乱れていないかしっかりとチェックする。
千本木のためのサンタクロース。
階段を下りてキッチンに行くと、冷蔵庫からソレを持って千本木のところに。
「はい、クリスマスケーキ。ブッシュドノエル、昨日から作ってたんだ。千本木へのプレゼントだよ。」
「あきら……。」
「ぼ、僕はいいからケーキを見ろよっ!」
「やっぱりな。」
「それ以上言うなよ!」
「かわいいってか?それじゃあ、うまそう!」
「……バカ。」
言うなと言いながら実は言ってほしかった感情は内に秘めて、僕はケーキにナイフを入れた。
「どう?」
「ん、うまい。お前、ホント料理うまくなったよな。」
「昔から母さんのそばでいつも見てたからかなぁ。まさかこんな形で役に立つなんて思わなかったよ。」
「そうだ、あきら一緒に写真撮ろうぜ。」
千本木は椅子を僕の横に付けると、ケータイを取り出しカメラのレンズをこっちに向けた。
「ほら、もっとよれよ。画面に入らないだろ。」
僕の頭に手をまわして引き寄せる。
僕はされるがまま、帽子を手で押さえながらカメラを見た。
<パシャ>
シャッターの切れる音。
「見せて見せて。」
千本木の懐にもぐり込むようにケータイの画面をのぞき込むと
「あはは、なんで千本木そんなカッコつけてんだよぉ。」
「お前だって、うれしそうな顔してるくせに。」
すかさず僕は千本木に肩をすり寄せ言い返す。
「千本木、昔からカメラ向けるとこんな……」
「あきら…。」
「…はい?」
僕は千本木に体をあずけたまま顔を見上げた。
「お前、今日はやけにくっついてくるな。」
「えっ?」
千本木は小さくほほえむと、僕の頬に優しく手をあてる。
ちょ、ちょっと……。
僕はとっさに目線をそらした。
でもその先のキャンドルの炎が揺らめくように、僕の気持ちも揺れ動く。
あぁそうか、これは千本木のシャンパンのせいだ。
僕も千本木もちょっと酔ってるから……。
みんな千本木が悪いんだ。
…千本木のバカ。
キャンドルの炎が大きく揺れ、サンタ帽が髪を滑り落ちる…。
僕は静かに目を閉じ、千本木にまかせた。Click!
「あっ、千本木、おはよう!」
「…おはよう。」
「どうしたの?」
「昨日のシャンパンが、まだちょっと残ってるみたい…。」
「ったくもう。先生や椎名さん達にバレないようにしっかりしてよね。」
「お前はなんともないのか?」
「僕は、というか桃井さんの体は酔わないからね。」
「でもお前、昨日は俺に酔ってたからな。」
「バ、バカ!」
「ブッシュドノエルもおいしかったけど、あきらも甘いチョコレートの味がしたな。」
「もう!千本木の酔っぱらい!!」
僕は顔をまっ赤にして千本木に声をあげた。
「あきら、みんな見てる。」
「えっ?…ごめんなさい……。」
そんな僕らのクリスマスの朝。
だ、だめだ。完全に趣味に走ってる。。 orz
あきらのサンタ姿カットと6巻予告チラシのカットを見て、なんかできないかと考えていたら、妄想というか、いや願望と言った方が適切かもしれない、こんなストーリーになっちゃいました。でもきっとみんなわかってくれるよねと、勝手に納得しつつ公開します。
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