サイドストーリー
夏の夜空を彩るページェント
僕と彼女の×××6巻45話と46話の間のストーリーです。
【45話ラスト】
「ちょっといいかげんそのフニャフニャした顔やめてよね!」
「それはムリ。」
「ちょっと千本木っ!」
僕の足を気遣ってゆっくり歩く千本木。時々、僕の方を向いて心配してくれる。
何故だろう。足の痛みも気にならない。千本木の浴衣の裾をつかみながら、僕は千本木の顔を見上げると、さっきまでのフニャフニャとは違う。
なんでそんな優しい表情してるんだよ……。
昔から千本木はいつも僕のとなりにいてくれたけど、千本木の腕につかまっているだけですごく安心できる。
こんな気持ち初めてだ。
「だいぶ人が増えてきたな。もうちょっと前に行きたいけど、これじゃぁ無理だな。あきら、見える?」
「う〜ん、打ち上げ花火は大丈夫だけど、橋の上の仕掛け花火は全然見えないや。」
「そうか、まぁ俺にいいアイデアがあるから大丈夫。」
そう言うと、前を向いたまま千本木の口元が緩んだ。
色とりどりの花火が夜空を飾り、人々の歓声がそのたびに上がる。僕は千本木につかまりながら、その光と音の祭典に見入る。
しだれ花火がその閃光を失いながら闇と同化した瞬間、バチバチと導火線を辿る音が。仕掛け花火に点火された音だ。と同時に、より高い歓声が上がり始めた。
僕は千本木に寄りかかりつま先立ちをするけど、それは見えない…。
「あきら。」
呼び声に顔を上げると、千本木は僕を抱き上げた。
「ば、ばか!何するんだよ!!」
僕は千本木に抱きついて、お姫様だっこされたまま声をあげる。
「恥ずかしいから、下ろせよ!」
「暴れるな!これなら見えるだろ?前を見ろ!」
千本木の声に、僕はまばゆい光を放つ方向に目を向けた。
「……すごい…。」
橋の上を縦横無尽に走りまわる光のダンス。
僕は千本木に抱きかかえられていることも忘れて、その光の行方を追っていた。
「きれい……。」思わず声が漏れる。
爆発音とともに扇状に光が解き放たれると、会場は闇に包まれた。
歓声は最高潮にあがり、拍手が鳴り止まない。
そんな中、千本木はそっと僕を地に下ろした。
「…見れてよかっただろ?」
僕は放心状態で目に涙が滲む。こんな感動は味わったことがない。
「来年も一緒に見れるといいな。」
僕は声もなく、千本木の言葉に小さくうなずいた。
花火大会も終わり、会場から人々が帰るために移動を始める。会場出口は狭く、でも後ろからはどんどんと人が押し寄せて来る。
僕は千本木の背中に押し付けられ、身動きも取れない…。
「くっ、苦し…。」
「あきら!」
千本木は人の流れの隙を突いて、僕を自分の前に出した。
「大丈夫か?」
「…うん。でも…。」
いつもの千本木らしく落ち着いた表情を見せているけど、本当は後ろからの力をこらえて僕を守ってくれている…。
やっとの思いで会場を離れると、
「すごい混みようだったな。」
相変わらず千本木は表情を変えないで話しかける。
「……なんでそんなに僕をかばうの?」
「なんでって、そりゃお前の彼氏だから。」
「……。」
「それに桃井との男の約束だからな。」
「え?」
「大事な親友を大切にするって、桃井に約束したから。」
「千本木……。」
なんでこんなに気持ちが安らぐのかわかったよ。
でも、それじゃぁ僕は、千本木になにをしてあげられるだろう……。
「どうした?」
「うん……。」
「そんな考え込まなくても、お前はお前のままでいいんだよ。俺は今のお前がいいんだから。」
そう、いつも僕の気持ちを察してくれる千本木。
「お前がこうして隣にいてくれれば…。」
「うん。」
「あー!菜々子ちゃーん!!」
その声に振り返ると、途中ではぐれてしまった椎名さんと桃井さんが。
「ねぇ菜々子ちゃん、ラストの仕掛け花火見れた?みんなものすごい歓声だったんだけど、あたし見れなかったんだよね…。」
僕は千本木の顔を見上げると、千本木は優しい表情でうなずく。
「…うん、見れた。すごくきれいだったよ。」
僕は千本木の浴衣の裾をつまんでいた……。
「おい、千本木、なんかやましいことしてないだろうな。」
「お前こそどうなんだよ。椎名さん、なにかされなかった?」
椎名さん顔赤いけど、何かあったのかな……。でもこれ以上は椎名さんが困りそうだったから、話を切り上げた。
「ほら、人も少なくなってきたし、もう帰ろうよ。」
ちょっと名残惜しかったけど、僕らはそれぞれの家路に別れて帰った。
【46話】
「送ってくれてありがとう。千本木。ちょっと寄ってく?」
「…今日は大胆だな。あきら。」
「おやすみなさい!」
「冗談だよ。じーさんいるしな。」
「これでガマンしとく。」
久々の作品です。
こういう原作のすき間を埋める感じのお話はけっこう書きやすいなと最初は思ったんですが、やっぱり難しかったです。。
でもサイドストーリーはもともとこれがコンセプトなので、原作の時間軸の間を描いていきたいですね。
どこまで答えられるかわかりませんが、「○○の部分を描いてほしい」とリクエストをいただければ描いてみたいと思います。
(8/17ちょっと修正しました)
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