サイドストーリー
追いつけない20センチの想い
「と、届かない…。」
宿題の参考資料を探しに僕は本屋さんにいる。
でも、コレと思った本は棚の一番上の段にあってどうしても届かない。
前は簡単に届いたのになんで?
「なにやってんだ?お前。」
「千本木!」
千本木の顔を覗き込むように見上げると
「あの本がほしいんだけど、届かないから取って?」
「これ?ほら。」
「ありがとう……。」
「なに、そんなに落ち込んでるんだ?」
レジを済ませると、僕らは近くのファーストフードに入った。
「さっきはありがとう。はぁ…。」
桃井さんと入れ替わる前は、僕も千本木と同じくらいの背の高さだったんだよな。
アイスラテのストローをグルグルまわしながら溜め息を吐く。
「だから、なんでそんなに落ち込んでるんだよ。」
「…うん、今まではあの高さの棚なら簡単に届いたのに、今は届かなくなっちゃったから……。」
「そうか、確かに20センチ近く低くなったんだから、一番上の棚は届かないだろな。でもそんなに落ち込むことか?」
「そりゃ千本木はいいよ。僕も身長ほしいと思って、やっと同じくらいの高さになったと思ったらこれだもん。」
「いや、俺にはちょうどいい……って、なにそんなににらんでるんだよ。」
「どうせまた、下心があるんだろ!」
「はは…」
どうしてコイツ、こんなにエロイんだ…。
ファーストフードを出て二人でしばらく歩くと、雨が降り出してきた。
「降ってきたか…。」
「僕、傘持ってるよ。」
「お前あいかわらず準備いいな。俺も入れてくれよ。」
「えっ…、う、うん。」
しょうがないか。
カバンから折りたたみの傘を出すと、千本木はすかさずそれを取り上げた。
そして傘を開くと
「お嬢さん、濡れます。こちらへ。」
「……そう言って、ほかの女の子にも声を掛けるんだろ。」
「あきらが初めてだよ。そしてこれからもあきらだけだよ。」
「…うさんくさ。」
「いいから早く入れ。濡れるだろ。」
千本木は僕の手を引き、自分の胸に僕を押し付けた。
僕はすぐに身を翻して前を向いたけど、赤面してるのがわかる。
「もう!恥ずかしいだろ!」
「なぜ?まわりのカップルもみんなやってるし。」
うー、確かに。でも僕は恥ずかしいんだ。
「同じ背の高さじゃ、二人で傘に入るのは難しいんだから、これでちょうどいいんだよ。」
千本木はうれしそうに話す。
「ほら、もっと寄らないと袖が濡れるぞ。」
そう言うと、千本木は僕の肩に手をまわして引き寄せる。
「お前、わざとやってるだろ。」
「こういう時は、男がリードするのが当たり前だろ。」
「僕も男なんだけど。」
「…いいから、俺に任せればいいんだよ。」
ちょっとイラついた表情の千本木に、僕は下を向いた。
しばらく沈黙のまま、雨の帰り道を歩く。
下から見上げる千本木の表情はまだ変わっていない。
ちょっと前までは同じ目線で話をしていたのに、今は顔を上げないと千本木の顔は見えない。
顔が見えないから、千本木の気持ちも見えなくなってしまったのかな。
突然、後ろから追い抜いて行ったトラックが水しぶきをあげた。
「キャッ!」
僕は驚いて、千本木に抱きついてしまった。
「大丈夫か?!」
「う、うん、大丈夫。ごめん。」
「そうか、よかった。でもお前、すっかり女の子だな。」
「…女の子らしくなって喜んでるんだろ。」
千本木の言葉に、ついムキになって返してしまう。
「……いや、昔と全然変わってない。」
「え?」
「お前、いつも一緒に歩いていて、突然石につまずいたり人ごみですれ違う人にぶつかったりして、そのたびに俺にしがみついてきただろ。そう、その時のお前と同じ。あきらはあきらのままだよ。」
上から語りかける千本木の表情は、まだ僕の身長が低かった頃のそれと同じだった。
千本木の気持ちが見えなくなったんじゃない。僕が見ようとしなくなってしまっただけなのかもしれない…。
「でも、確かに女の子らしさにも磨きがかかってきたな。」
「え゛………。」
人を小馬鹿にする態度も昔と変わらないな。
「ほら、傘からのしずくが袖にあたってるだろ。もうちょっとこっちに寄れよ。」
「う、うん。」
折りたたみだからそんなに傘は大きくないのに、僕が濡れないように柄をさらに傾けた。
「千本木が濡れちゃうよ。」
「傘の持ち主が濡れちゃヘンだろ。雨、少し強くなってきたから、お前んちまで送るよ。」
昔から僕は千本木から見下ろされるのがちょっと悔しかった。
僕の性格のせいでもあるけど、同い年なのにいつも年下みたいにあつかわれたから。
だから千本木の身長に追いついたときは、これで対等に話ができると思ってた。
でも千本木はもっと広い視野で僕を見ていてくれてたんだな…。
一言謝らなくちゃと思ったけど、言い出すきっかけを作れなくて、家に着いてしまった。
「じゃぁ、ここで。早く帰らないと姉貴どもがうるさいんだよ。」
「あ、あの、千本木…。」
「なに?」
「あの…ごめ……あ、ありがとう。本を取ってくれて。」
「なんだよ、そんなこと。あのくらいでよければいつでもどうぞ。」
うれしそうに笑いながら、僕の頭に手を置いて髪を撫でる。
「じゃな!」
振り向いて雨の中に飛び出したから、僕は声をあげた!
「千本木!傘!! これ持ってって!」
呼び止められた千本木は、かばんをごそごそとあさると
えーーーーー!!中から折りたたみの傘を取り出した…。
その傘を広げると、僕に向かって
「あきら! 雨の日はまた相合傘で帰ろうな!」
そう言い放つと、雨の中を足早に消えて行った。
悔しいけど、僕はまだまだ千本木には追いつけないな。
えっと、4巻176ページラスト2コマを元に描いてみました(^^)
このラストのコマって、じつは何か深い意味があるんじゃないのかなぁと思ってたんですね。だからこれを元にお話を描けないかといろいろと考えていたんですが、出だしの数行だけで止まっていたんです。。でも先日のGW中にちょっと買い出しに家を出た時に、突然雨に降られちゃって、その時に「これだ!」とひらめいたわけです。
ストーリーのネタは、考えて作るより、やっぱり一瞬のひらめきですね。でもなかなかひらめかないのが問題です。。。
Crystle Garnetの葵さんのブログ移転に伴い、以前描いていただいたイラストとそのイラストを描いていただくに至った経緯について転載させていただきました。葵さん、ありがとうございました。(2010/4/4 もえじろ)
2007/10/26 とってもおすすめ☆漫画本!
めっちゃ面白いです!!
『山田太郎ものがたり』を書いている
森永あいさん(著)の
『僕と彼女のXXX』
COMIC BLADE avarus (コミックブレイド アヴァルス) 2007年 11月号で
連載しています!
私は上のアヴァルスの雑誌を、VassalordのCD目的で買ったのですが、すっかり「僕と彼女のXXX」にはまってしまいました!
千本木がかっこよすぎです(笑)
あきら=桃井が可愛すぎます(笑)
まだ読んでいない人!
お勧めですよ!!話の大まかな内容は、
主人公あきらが、密かに想いを寄せている桃井のおじいさんの実験のせいで桃井と体が入れ替わり!
外見美男子、中身が超地味天然なあきらと、外見美少女、中身が超ガサツな男前桃井。
体が入れ替わったことで、周囲からの目も変わりお互いの恋の相手も……!?
とにかくはちゃめちゃで、あきらが可愛くて、千本木がかっこよくて!!
傑作ですよ!!
……そういう私は山田シリーズまだ読んでいません……。
読んでみようかな〜。
面白い漫画が読みたいな〜って方!
何度も言いますが(笑)お勧めです!はじめまして。
「僕と彼女の×××」のファンサイトをやっている moegiiro と申します。
検索エンジンをまわしていて、貴ブログを見つけました。
1年以上前の記事にコメントをつけるのはどうかと思いましたが、
葵様のイラストがとてもステキだったので、私のサイトからリンクしてしまいました。。
直接この記事にリンクをはっていますが、問題があるようでしたら修正します。
以上、リンクした旨お伝えいたします。
(できれば、葵様の描く 千本木とあきらのなツーショットイラストが見たいなと思っています
絵を描ける方が羨ましいです。。)
投稿 moegiiro | 2008/12/01 00:05>moegiiro様<
> コメント&リンク報告ありがとうございます!
『僕と彼女の×××』のファンサイト様なのですね
早速訪問させていただき、リンクページも拝見させてもらいました。
丁寧な紹介ありがとうございます☆
リンクページはどちらでも結構ですよ♪
貴サイト様にリンクしていただいて、こちらのほうこそいいのかなぁと思っていますが、とてもありがたいです
リクエストもありがとうございます!
千本木とあきらですね……どんなものになるかわかりませんが(笑)
頑張ってみます!
いつになるかわかりませんが、できたらブログに更新しますね。
当ブログでもリンクをはらせていただこうかなと思っています。
どうぞこれからも気楽に遊びにいらしてくださいね♪
投稿 葵 | 2008/12/01 22:53葵様
お返事ありがとうございます。
イラストもリンクもいただけるとのことで、とってもうれしくて、私のHPの今日(12/1)のブログにも書いてしまいました。
イラストはお時間のあるときでかまいません。首を長〜くして待ってます
これからも遊びに来ますネ。よろしくお願いいたします。
投稿 moegiiro | 2008/12/02 00:39
2008/12/04 あっめあっめふっれふっれ〜♪
リクエスト戴いたので、『僕と彼女の×××』から千本木とあきら。
いちゃ絵を御所望されていたのですが全然いちゃこいてませんね!
すみません!!
moegiiroさんからのリクエストでした☆
この度リンクもさせて頂いております!!
『僕と彼女の×××』サイト様です♪
素敵な小説も読めるのでぜひ足を運んでみてくださいね!
さてさて、イラストの話に戻りますが。
ブログを拝見させて頂いたところ、小説から……という要望がちょこっと載っていたので(笑)二人で傘さしてるシーンを選ばせてもらいました(^^)
さりげなく手が触れちゃってるとことかポイントです!!
小説とあんまりリンクしてないんじゃない?とか思わないでください(^^;)
千本木とあきら……?とかいうつっこみもなしで(笑)
moegiiroさんリクありがとうございました☆
また機会があれば描きたいな(*^_^*)
投稿日 2008/12/04 イラスト(版権)葵様
さっそくイラストを描いていただき、ありがとうございました
まさかこんな早くいただけるとは思わなかったので、とっってもうれしいです。
感想は私のブログ(12/5)に書かせていただきました。(宣伝モード。。)
また、リンクも張っていただき、こちらもありがとうございます。
これからも遊びにきますので、よろしくお願いいたしまーす☆
投稿 moegiiro | 2008/12/06 00:10
現在の拍手数:281
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いただいた感想一覧
私も似たようなところがツボだったりします(^^)
千本木自身、男だったときのあきらも含めて今の感情を抱いているわけですから、その気持ちをうまく表現できたらなぁと思って描いています。
で、今描いている二次創作(原作から離れるお話ネ)の出だしは、きっとmamiさんも気に入ってくれるんじゃないかなと思います。
もうちょっと待ってね☆(最近仕事が忙しく時間が取れなくて。。)
ホント、まさか同じ時期に同じテーマでストーリーを考えていたなんて、夢にも思いませんでした。
裏話については、原作では千本木が追いつかれてヤな顔をしているのがすべてで、あきらは何も考えていないんじゃないかなぁと思います(^^; でも、あきらは実は心の底ではそう思っていたんじゃないかなと、これもほとんどひらめきと勢いで書いちゃいました。
今回はちょっと内容が重いかなと思いつつ、自分ではけっこううまく描けたかなぁなんて思っております(^^)
(乙ナナさんのコメントはもともと足跡掲示板に頂いたのですが、こちらに移動させていただきました)
忙しさにかまけて来れていなかったら新作が!
まさかの身長ネタがかぶり、運命を感じています
なるほど、あのシーンにはあんな裏話がと納得
次の作品を待ってますのでこれからも頑張ってください
どうもありがとうございます(^^)
ただ、ちょうど点数の選択ボックスの仕組みを直している最中に投票されたので、直す前の点数で集計されています。でも1番乗りさんの評価ですからこのまま採用させていただきますネ。申し訳ありません。。