ぬいさんの作品

白い吐息

投稿:ぬい:2010年9月1日

「クリスマスかぁ…」
白い息を吐きながら、あきらは呟いた。歩幅を合わせるようにその隣を歩く千本木は、何?と訊ねる。
「うん…あのさ、今まではクリスマスなんてあまり意識して過ごしたことがなかったけど」
「うん」
「何か今年は違うなぁって…」
ほぅ、と悴む両手を息で温めながら、何だか嬉しそうに微笑む。
そんな彼女(彼)の姿を見て、千本木は自分の腕を力一杯につねった。思わず抱きつきたくなる衝動を理性で懸命に抑え、高鳴る鼓動を深呼吸で整える。
「…ふぅ」
「…?どうしたの?」
「何でもない…」
変なの。と訝しげな顔を見せた後、再び楽しそうに笑うあきら。
(だから、その顔が反則なんだよ)
頭を抱え、堪らず溜め息を吐く。天然の可愛さを持つあきらを、この時ばかりは憎んでしまう。
(やっぱこいつ、女になれて良かったんじゃないか…?)
「ねぇ、千本木」
「!?」
一人物思いに耽っていると、突然あきらの顔が眼前に現れた。思わず驚き、一瞬肩が大きく跳ねてしまう。
「な、何?」
「あのね、僕ケーキ作るから、今夜は一緒にクリスマスパーティーしよ?」
おじいさんは珍しく飲み会に行くって言ってたし。そう言うと、千本木もまた珍しいことがあるもんだと笑った。
「クリスマスだからかな」
「サンタからの贈り物みたいな?」
「そうそう、ご褒美って言うかさ」
最近二人きりになれる機会が中々なかったんだから、おじいさんには悪いけれどそう思ってもバチは当たらないだろう。
互いにそんなことを思ったように顔を見合わせると、何だか可笑しくて吹き出してしまった。
「やだな、何かイケナイことしようとしてるみたい」
「そうだな」
喉を鳴らして二人は笑う。それはまるで、イタズラの計画を立てている子供のよう。




ふと千本木が何かを思い出したように訊ねる。
「そう言えば、ケーキってこれから作るのか?」
「うん。椎名さんに教えてもらって…」
「…あきら、まさか…」
千本木がもしやと疑いの眼差しを向けると、あきらは両手をブンブンと降った。額には変な汗が滲む。
「ちっ…違うよ!教えてもらったのはこの間のことで…今日は椎名さんも桃井さんも別行動だよ!?」
あの二人はあの二人で、放っておいたらどうなるか不安だけど…と、複雑な表情も見せる。すると千本木は軽く伸びをして「良かった」と呟くと、続けて興味の無さそうな顔で言い放った。
「ま、俺はお前と過ごせたらそれだけでいいし、あいつらがどうなろうが知ったことじゃないけどな」
「な、何てこと言うんだよ!桃井さんはともかく、椎名さんが…」
親友の危機を何とも思わない素振りの千本木の服の裾を慌てて掴むと、彼は待っていましたと言わんばかりにニヤニヤした顔であきらを見つめてきた。
その姿に一瞬怯んでしまう。千本木はそんなあきらの頬に、軽いキスを落とした。
「な、なな…??」
「お前だって、それを分かってて放っておいたんじゃないか」
「う…」
図星を付かれて、あきらはたじろぐ。
そうだ。だって、桃井さんは椎名さんを本当に大事にしているから。無理なことはしないと信じているから。
だから自分は安心して、千本木と過ごすことに決めたんだ。
「今日ぐらい、二人きりの時間を過ごそうよ」
身も心も、誰にも邪魔されない一時を。
「…うん」
あきらが小さく頷くと、千本木は嬉しそうに口端を持ち上げ、おもむろに彼女の手を取る。
不思議そうな顔で千本木を見上げると、彼はにっこり笑って言った。
「手、冷たいだろ?」
繋いだ手から、外気の冷たさを忘れてしまうぐらいに温かさを感じた。


早く帰ろう。
小さなケーキと、シャンパンも開けて。
一年に一度の記念日を、二人だけのものに。


「千本木、温かい」
「だろ?」
吐息は未だ白いけれど、そんな季節だからこそ、温もりを感じられるんだと思う。
寒くて、温かい、クリスマスを。


merry christmas...




【あとがき】
千本木もあきらも、このクリスマスは“恋人”的な感じで過ごしてほしいなと。でも気付いたら二人で碁とかやってたりして(笑)
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