ぬいさんの作品
Halloween of lovers
投稿:ぬい:2010年9月1日
「あきら、何やってんの?」
あきらの住む家、桃井家。学校帰りに遊びに来たものの、インターホンが壊れているのか反応もなく、仕方なしに家へと上がってきた千本木が見たものは…何やら必死に調理しているあきらの姿だった。
「あ、千本木来たんだ」
ごめんね、今手が放せなくて…と謝りながらも、きちんと寛げるような雰囲気を作ってくれる恋人を愛しく思う。
「今ね、椎名さんから教えて貰ったレシピでパンプキンパイ作ってたんだよ」
他にもクッキーとかね、と楽しそうに笑う。
「へぇ、美味く作れるといいな」
「うん。出来たら千本木と食べようと思ってさ♪」
その無邪気な表情に胸が跳ねる。千本木は鼓動が速まるのと同時に、自身の顔が熱くなるのを感じた。
「〜♪」
それに気付かず鼻歌など歌うご機嫌なあきら。千本木は気分を落ち着かせる為にキョロキョロと辺りを見渡す。
そう言えば、キッチンには幾つかの小振りなカボチャが並んでいる。生のカボチャはとても堅いから、女性が切るには小さめの方が勝手がいいのだろう。
(…ああ、そうか。今日はハロウィンだったか)
漸くそれに気付いた千本木はあきらの側にそっと寄ると、小さく小さく呟いた。
「あきら。そのパイとかクッキー、明日完成させるのはダメ?」
「ええっ!?何で?折角ここまで作ったのに…」
納得できないと文句を言うあきらの頬にキスを贈りながら、千本木はその華奢な体を抱き締めた。あきらは不思議そうな顔で彼を見る。
「…だってさ、お菓子出来たら悪戯出来なくなっちゃうだろ?」
「………!!なっ、何言ってんの千本木、ばかじゃないの!?」
暫く目をパチパチさせていたあきらは、その意味に気付いた瞬間、顔から火を吹く勢いで真っ赤になった。千本木も何だかんだで恥ずかしいのか、少し照れ臭そうだった。
「だからさ。明日作ってくれない?それで、一緒に食べよう」
「……」
「あきら?」
「…無理だよ。だって、ハロウィンは今日だけだもん」
「………」
そんな乙女的な理由で断られてしまうと、千本木も何も言えなくなってしまう。本当はイベントより、ただ側にいてあきらを感じていたかっただけなのだけれど。
「けど、」
「?」
話には続きがあると言うように、あきらも千本木に抱き付く。緊張しているのか、服を掴む手が少し震えている気がする。
「まだ、お菓子出来上がってないから…」
「あきら」
「だから、今なら…悪戯しても、いい…よ?」
そう言って、震える手に力を込める。千本木は嬉しくなって、抱き締め返しながら、魔法の言葉を呟いた。
「…Trick or Treat?」
あきらも、素直にそれに答える。
「…Treat」
そうして、瞳をそっと瞑れば、千本木の優しいキスが落ちてくる。二人の唇が重なると同時に、彼らは床へと倒れ込んだ。
恋人達のハロウィンは、甘い甘い悪戯で。
【あとがき】
前回に引き続き、若干アダルトなお二人様です(笑)だけどやっぱりあきらには乙女心を忘れないでいてほしいなと。
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