ぬいさんの作品

これ以上好きにさせないで

投稿:ぬい:2010年9月1日

「なぁ、あきら…」
ベッドの中でもぞもぞと動く千本木。そんな彼に目もくれず、あきらはシャワーを浴びたばかりの湯気立った体に、さっさと下着を着け始めていた。
あきらはいつも、情事の後すぐに浴室へと向かう。初めての頃はそんなこともなかったのだが、このところはずっとだった。
(ったく、何だって言うんだ…)
精一杯愛しているのに、そんな行動を取られてしまうと、何だか自分が汚らわしく思われている気がしてくる。
気に入らないことでもあるのかと、何度か聞いたこともあった。しかし、答えはいつも「何でもない」。その上目も合わせないあきらに、時折苛立ちさえ感じていた。
「…何でもないわけあるかよ…」
「何、千本木?」
ボソリと呟いた声に振り向くあきら。それは、下着に薄いシャツを羽織っただけの姿。
まだ若い千本木…しかも、モヤモヤした感情を抱いた状態でそんなものを見せられたら…。理性のタガが外れるのも一瞬だった。
彼は側に近寄ってきたあきらの腕を掴むと、力一杯引き寄せた。
「い…っ」
バフッと音を立ててベッドに沈むあきら。突然の出来事と掴まれた腕の痛みに眉を寄せた。
「千本木!何す……」
抗議しようと顔を上げるあきらを、千本木は腕の中に閉じ込める。あきらは一瞬だけもがいたが、放される訳がないこの状況に、すぐ諦めることにした。
「………」
「………」
無言のままの二人。ただ、呼吸の音と、心臓の鼓動だけが耳に響いた。
「千本木…」
いつもと様子が違う彼に戸惑うあきら。声を掛けると、彼は抱き締める腕から少しだけ力を抜いた。
「あきら、お前さ…」
「…何?」
「俺のこと本当に好きなの?」
「え?」
唐突な問い掛けに困惑する。
当たり前じゃないか。そうでなかったら、誰がこんなことをする?と言うか、何故そんな疑念を持つ?
「……」
唖然としたままのあきら。何も言えずに黙っていると、千本木が口を開いた。
「俺は、お前が好きだし…」
「……」
「もっと触れ合っていたいよ…」
「千本木…」
彼の何かを圧し殺したような声に、何故か涙が出そうになる。あきらは下唇をキュッと噛んだ。




「…僕だって」
「…あきら」
「僕だって、もっと触れ合っていたいよ」
漸く開かれた唇。そこから溢れたのは、千本木と同じくらい、何かを圧し殺したような声。
零れそうな涙をぐっと堪え、あきらは想いを綴る。
「僕だって千本木が大好きだよ。だからこうして身も心も捧げたんだよ?」
「……」
「後戻り出来ないことも怖かったけど、それよりも…千本木とずっと一緒にいたいって思ったから…」
そう言いながら千本木の胸に頬を当てると、自分を包む温もりを更に感じ、とうとう泣き出してしまった。
次から次へと流れる涙。もうどうしたって止まりそうになかった。
「あきら」
「…だけど、やっぱりまだ怖いんだ」
嗚咽混じりに話すと、千本木は頭を撫でてやる。
「…何が?」
「……」
「言ってよ。怒らないから」
優しく言うと、あきらは潤んだ瞳で彼を見、そして呟くように話し始めた。
「…これ以上…好きになっちゃうこと…」
「え?」
思わぬ返答に目を丸くする千本木。そして、耳まで真っ赤にするあきら。
「だから…千本木と付き合って、こうして…い、色んな…こともするようになって…」
口をモゴモゴとさせながら一生懸命喋る。
「心も体も全部千本木に持ってかれちゃって…もうあげるものがないのにさ…」
視線を斜め下に持っていきながら、彼の腕の中で、想いを語り続けた。千本木はただそれに耳を傾ける。
「なのに、もっともっと好きになっちゃいそうだから…」
…成程。あきらにとって初めての恋人。初めての行為。初めてのことばかりで、恐らく恋愛事情に幼い彼の許容量を超えてしまいそうなのだろう。
好きに限界ってないの?と自分にすがり訊ねるあきらが愛しく思えて、千本木はきつく抱き締めた。
「…っ、く、苦し…」
「あきら…ありがとう」
「…へ?」
今度はあきらが、思わぬ展開に目を丸くした。何がありがとうなんだろう。疑問符が頭に飛び交う中に、千本木の優しい声が響く。
「それだけ強く想ってくれてるんだ」
「……う、ん…」
「もしかして、すぐにシャワーを浴びに行くのも…」
「言わないでよ…」
「ごめん」
恥ずかしそうに俯くあきらをまた抱き締めながら、千本木は笑って謝った。




…きっと、自分の気持ちにセーブをかけたかったのだろう。おかしくなってしまいそうな自分を、現実に引き戻す為に。
「…でも、」
「?」
あきらの頬に一つキスを与えて、千本木は再び笑った。
「もっと好きになっていいよ?」
「千本木…」
「て言うか、好きになってほしい」
ニコニコとしながらそう言うと、あきらの顔は一際赤くなる。最早何も言えなくなってしまったあきらの頭を撫でながら、千本木も何も言わず笑っていた。
「…あきら」
「ん」
名前を呼び、顎を引き寄せ、キスをする。
「もう一回、いい?」
「……仕方ないなぁ」
折角お風呂に入ったのにと文句を言いながらも、自ら千本木の背に手を回す。
「ねぇ、千本木」
「何?」
彼の肩に額を乗せ、小さく呟くあきら。
「僕…もう逃げないように頑張るから」
「あきら…」
「だけど、もしどうしようもなくなっちゃったらさ」
そう言って、今度はあきらから唇を寄せた。ほんの一瞬ではあったが、らしくない行動に、千本木はつい温もりの残る唇に手を当ててしまう。
あきらは照れ臭そうにはにかむと、一言付け加えた。
「もう逃げないように、掴まえててよ」
「…勿論」
二人は笑いながら抱き合うと、再びベッドへと沈んでいった。




【あとがき】
正直この二人がキス以上のことをする姿は想像しにくいのですが(エッチなのがダメなんじゃなく、原作のがあまりにも初々しくて…)、それでも、彼らはどんな関係になっても仲良くいてほしいです。千本木もあきらも可愛いよー!!
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