ゆささんからの寄稿作品

初雪の夜に

投稿:ゆさ:2010年1月15日

12月31日の深夜。
千本木進之介は悩んでいた。待ち合わせ場所へと向かうその足取りは、重い。
(どうやってふたりっきりになろう)
デートの行き先は神社だ。いくら一緒に夜を過ごすといっても、初詣客でごったがえすあの場所で長時間ふたりだけになるのは不可能だろう。
近辺のラブホテルは同じことを考えるカップルで一杯だろうし、そもそもそこまで連れこむことすら無理そうだ。照れ屋で奥手なあきら相手にさすがの千本木も焦れている。
千本木があきらと付き合い始めてかれこれ半年。キスとちょっとしたお触り程度しかまだ許してもらっていない。健康な十代男子の彼としてはもうぼちぼち先のステップに進みたいところだ。
大事にしたい。でも完全に自分のものにしてしまいたい。相反する気持ちがせめぎあって、今にも爆発しそうになっている。
(まだ不安なのかな、俺は)
あれこれ考えているうちに、いつもの駅に着いてしまっていた。
千本木は辺りを見回す。あきらはまだ来ていない。彼はほっとため息をつき、建物の壁に寄りかかった。
あきらはたいてい千本木よりあとにやって来る。彼はこの場所でいつもどきどきしながら待っているのだ。
そして今日もまた、頬を上気させたあきらが千本木のもとに駆けてきた。襟にファーのついたコートとブーツの白がとても眩しい。シャンプーだろうか、さわやかな花の香りもする。彼の胸はきゅっと締めつけられた。
「ごめーん、待った?」
「あきら」
いつものように千本木は微笑んだ。
「行こうか」   
「うん」

予想通り、神社は多くの初詣客で賑わっていた。
千本木はさりげなくあきらの手を握る。いい加減あきらも学習したのか、黙ってされるがままだ。
後ろから押されるようにのろのろと参道を歩く。鐘の音が徐々に近づいてきた。
「除夜の鐘って全部で108回鳴らすんだよね? 今で何回目ぐらいかな」
「さぁ…もうすぐ日付が変わるから、あとちょっとで終わりじゃないか」
「厳かに感じるはずなんだけど、この人混みじゃ台無しだね」
混雑が苦手なあきらにはこの状況が歓迎できないらしい。げんなりした様子だ。
それを横目に、千本木は本音を口にした。
「俺は混んでるほうがいいな。そのおかげで、こうしてあきらと手を繋げるだろ?」
「なに言ってんの、もう! 恥ずかしい」
振りほどかれそうになった手を、千本木はギュッと握り締める。
あきらが真っ赤になってそっぽをむくのは、いつもの通り。そこが可愛いとはいえ、いいかげんもう慣れて欲しいと願う千本木であった。

急に周囲がざわざわしだした。どうやら今年の鐘はつき終わったようだ。
カウントダウンしているグループがいる。千本木も腕時計を見た。
「5、4、3、2、1…」
「0時だ」
「あけましておめでとう、あきら」
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「なぁ、あきら」
「なに?」
「お年玉はないの?」
「ええっ?! 僕は千本木のお母さんじゃないよっ!」
「なんでもいいからさー。な?」
「千本木の“なんでも”はどうせろくでもないモノだろ」
「ふーん、例えば?」
「なっ、なに言わせるつもりだよ!」
つい調子に乗りすぎたらしい。あきらは手を振りはらい、参拝の列から外れてずんずん行ってしまう。千本木は慌てて追いかけた。
人混みが途切れた辺りで、あきらが急に立ち止まった。
「雪だ」
「え…」
つられて千本木も空を見上げる。
彼のあごに柔らかなものが触れた。
周りの音が一瞬、消えたかのように彼は感じた。ほのかにただようこの香りはあきらのもの。
それがキスだと気づくまでの数秒間、千本木はぼんやりと夜の闇を眺めていた。
分厚い雲に覆われた夜空に雪はまだ見えない。
「お年玉。なんでもいいんだろ」
そう言うと、あきらは目をそらす。
(これがあきらの精一杯なら、まだまだ先は長いな)
あきらの気持ちが千本木に追いつくまで、しばらく時間がかかりそうだ。でもこういうサプライズがあるのなら待つのも悪くない、と彼は思った。
千本木は人差し指を唇に当てにっこりと笑う。
「ここは?」
「図に乗るなよ!」
「残念。でもサンキュ。すごく嬉しい」
「…バカ」
あきらはうつ向いたまま顔を上げようとしない。
その華奢な肩を引き寄せ、千本木は今年最初のハグをした。
今度こそ本物の雪が静かに降り始めた。

ゆさです。毎度ありがとうございます。
え〜相変わらずツンデレなあきらとヘタレな千本木ですみません(^^;
「ええい、もっとゴーインにいっちまえ〜!」と心の中で叫びましたが、好きなキャラほどいぢめたくなるSな性格なもので、またまた千本木に忍耐を強いる内容となってしまいました。
「あんなお年玉で誤魔化されていいのか、千本木!」とツッコミをいれてやってください。

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いただいた感想一覧

ゆさ  投稿日時 2010-1-17 0:08
もえじろさん、コメント2つ目、ありがとうです〜!
「ふにゃふにゃ」とまではいかなかったにせよ、「ふにゃ」程度は書いたつもりなんですが、ビミョーだったみたいですね(^^;
ええ、ふにゃふにゃ千本木、もえじろさん描いてくださいよ(キッパリ)
あたくしには今のところこれが精一杯でございます(><)
デレの神(いるのか、そんなもん)が降臨することを祈ってくださいませ(^^)/
もえじろ  投稿日時 2010-1-15 23:28
こっちもお疲れさまでした。
「ええぃ、ヘタレ千本木めっ!」ってツッコミたいところですが、優しい千本木もいいなぁ(^^)
キスに気づいた瞬間にふにゃふにゃへにゃへにゃしちゃうんじゃないかと思ったんですが、決めるところは決める千本木はやっぱりカッコイイですね☆
ということで、次回作はふにゃふにゃな千本木をお願いしまーす(^^)/
(自分で描けって逆に突っ込まれそーだ。。(^^;)