ゆささんからの寄稿作品
小さな痛みはそよ風に乗せて……
投稿:ゆさ:2009年12月18日
僕と彼女の×××5巻冒頭の期末テスト終了の少し前です
「あー疲れた。ちょっと休憩な」千本木はそう言ってシャーペンをほうり出し、大きく伸びをした。
「そうだね」
僕も手を休め、千本木にならって伸びをする。
ちょうど一息つきたいと思っていたところだった。こういうのを以心伝心とでもいうのだろうか、長い付き合いっていいもんだなあとしみじみ感じる。
「日も傾いてきたし、いったん窓開けるぞ。あきら、エアコン切って」
「うん」
千本木が窓を開けると、夏の夕方の生ぬるい空気がぶわっと入ってくる。クーラーで冷えきった体には案外心地いい。
「麦茶持ってくる」
「ありがと、千本木」
今日は千本木の家で期末テストの勉強会。
スポーツだけでなく勉強もできる千本木は、実際とても頼りになる奴だと思う。おかげでさくさくとテスト勉強が進んでいる。
そしてこの試験期間を乗り切れば、いよいよ修学旅行——北海道だ。
(桃井さんはきっと、椎名さんと一緒にあちこち回ったりするんだろうな…)
よせばいいのに、ろくでもないことばかり想像してしまう。
並んで歩く椎名さんの輝くような笑顔。ちょっと照れた仕草で手をつなぐ桃井さん。
二人の姿を写した何枚ものスナップ写真。おそろいのお土産。
二人が順調にいっている証拠の数々を目にして、はたして僕は笑顔でいられるだろうか。
胸の奥にじわじわと鈍い痛みが広がっていく。
(僕もいいかげん、しつこいよなぁ)
無理だと分かっているのに、あきらめきれない。こればっかりはどうにも出来ないのだ。
今ではすっかりお馴染みになったこの痛みに、ふと苦笑いが浮かぶ。
と、その時。
太ももにずしっと重みを感じた。
メガネを外した千本木が僕の膝をまくらにして寝ころがっている。
「せ、千本木?」
「……」
「千本木ってば!」
「なに? 休憩って言ったろ」
「膝まくらするなんて言ってないよっ! だいたい麦茶だって一口も飲んでないし」
「ぼーっとしてるから飲みそびれるんだろ。相変わらずけちんぼだなー、あきらは。俺たちつきあってるんじゃなかったっけ。これくらいは許されると思うんだけど?」
今それを持ち出すなんて、ずるい。何も言い返せないじゃないか。
困っている僕を見て千本木はニヤニヤしている。いじめっ子め。
僕はしぶしぶうなずいた。
「…5分だけだぞ」
「わかったわかった、5分な」
「膝まくらだけだからね!」
「わかってるって」
千本木は笑って目を閉じた。
そして静寂。
しばらくすると寝息が聞こえ始めた。珍しいことにそれ以上何もする気はないらしい。
ほっと肩の力がぬける。
窓からは風鈴の音とともにそよ風が流れ込んでくる。
僕はふと気がついた。
不思議なことに、あの胸の痛みはいつの間にか消え去っていた。
僕は千本木の広い額にかかる髪をさらりとひと撫でする。
(ひょっとして…)
目ざとい千本木のことだ、こちらの思ってることなんてきっと全てお見通しなんだろう。ぐずぐずと煮え切らない態度に内心相当むかついてるだろうに、僕の気持ちが軽くなるようさりげなく気遣ってくれる。
そんな優しい千本木を傷つけるようなことばかりしている自分は、本当にひどい奴だ。誰もが皆そう言うに違いない。
(ごめんね、千本木)
僕は心の中でそっと呟いた。
はじめまして、ゆさです。
このたびは私のつたない初小説を最後まで読んでくださって(ますよね?)、ありがとうございますm(__)m
もえじろさんから誘われた時には「絶対無理!」と突っぱねたんですが、その直後わーっと、始まりの千本木のセリフやら、膝まくらの情景やら、ラストのモノローグまでもが頭の中に浮かび上がり、勢いに任せて書き上げました。
ほんのつかの間の出来事の中に、あきらの揺れる乙女(?)心を描いたつもりです。
とても季節はずれですが、この寒い冬の日に小説の「夏」を感じ取っていただけたら、幸いです。
次の「いつわりは君の秘密」はこの作品の双子の片割れにあたるものなので、もし興味をお持ちでしたら、ぜひ続けて読んでくださいませ。ご感想などいただけたら、なお嬉しいです。
最後に、このような場を与えてくださったうえに、センスのない私に代わって「小さな痛みはそよ風に乗せて……」という素敵なタイトルを考えてくださった当サイトの管理人・もえじろさんに、感謝を捧げます。
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いただいた感想一覧
ゆさ
投稿日時 2009-12-21 23:30
みみさん、感想ありがとうございますm(__)m
こういった具体的なコメントをいただけると、とても参考になります。
最初にこの作品をもえじろさんに見せる時、このHPの雰囲気にそぐわないんじゃないか、こんな妄想小説でいいんだろうか、とドキドキしました。
みみさんはどうだったでしょうか。
同じような気持ちだったかな?なんて、勝手に同志のような気分でしたよ〜、私(^^)
当分はお忙しいようで残念ですが、あの矢野くん、気になりますんで、ぜひぜひまた書いてくださいね(^^)/
こういった具体的なコメントをいただけると、とても参考になります。
最初にこの作品をもえじろさんに見せる時、このHPの雰囲気にそぐわないんじゃないか、こんな妄想小説でいいんだろうか、とドキドキしました。
みみさんはどうだったでしょうか。
同じような気持ちだったかな?なんて、勝手に同志のような気分でしたよ〜、私(^^)
当分はお忙しいようで残念ですが、あの矢野くん、気になりますんで、ぜひぜひまた書いてくださいね(^^)/
みみ
投稿日時 2009-12-21 18:53
ゆささんの小説読ませていただきました!!
二作品も書かれていてびっくりしました^^
そして、その完成度の高さにも驚きました!
千本木とあきらの心理描写がとても丁寧に描かれていて、ゆささんの文章に引き込まれる感じがしました。
二人の苦しい胸の内とかががひしひしと伝わってきました。
初めでここまで書けるなんてすごすぎですよ〜。
ゆささんの今後の作品がとても楽しみです^^
私はしばらく忙しい日々が続くので当分書けそうにありません(><)
二作品も書かれていてびっくりしました^^
そして、その完成度の高さにも驚きました!
千本木とあきらの心理描写がとても丁寧に描かれていて、ゆささんの文章に引き込まれる感じがしました。
二人の苦しい胸の内とかががひしひしと伝わってきました。
初めでここまで書けるなんてすごすぎですよ〜。
ゆささんの今後の作品がとても楽しみです^^
私はしばらく忙しい日々が続くので当分書けそうにありません(><)
ゆさ
投稿日時 2009-12-19 0:20
もえじろさん、コメントありがとうございます。
「あれだけ拒否っといて2本も書くか?!」とさぞかしあきれられたと思いますが、掲載していただき感謝しておりますm(__)m
そればかりか、1作目はもえじろさんにタイトルまで考えてもらって嬉しかったです。もうちょっとセンス磨きます〜(^^;)
まだまだつたない初心者ですが、ご期待にそえるよう頑張りたいと思ってますので、よろしくお願いしますね(^^)/
「あれだけ拒否っといて2本も書くか?!」とさぞかしあきれられたと思いますが、掲載していただき感謝しておりますm(__)m
そればかりか、1作目はもえじろさんにタイトルまで考えてもらって嬉しかったです。もうちょっとセンス磨きます〜(^^;)
まだまだつたない初心者ですが、ご期待にそえるよう頑張りたいと思ってますので、よろしくお願いしますね(^^)/
もえじろ
投稿日時 2009-12-18 23:22
この原稿をいただいた時の私の第一印象。
「負けた。。」
あまりに完成度の高いこの作品に、本当にそう思いました。
私とは作風が違い、こういう描き方はできないなぁとしばし画面に釘付けになりました。
そしてこれが初めての小説というのですから、将来はどうなっちゃうのと思うのと同時に、ゆささんと出会えて本当によかったなぁと思いました。
応援しますので、これからもいっぱい小説を投稿してくださいね☆
「負けた。。」
あまりに完成度の高いこの作品に、本当にそう思いました。
私とは作風が違い、こういう描き方はできないなぁとしばし画面に釘付けになりました。
そしてこれが初めての小説というのですから、将来はどうなっちゃうのと思うのと同時に、ゆささんと出会えて本当によかったなぁと思いました。
応援しますので、これからもいっぱい小説を投稿してくださいね☆