二次創作小説

第3話 過去と未来の狭間

投稿:もえじろ:2008年8月17日

「でも、そのおかげで桃井は生き生きしてるんだから、よかったんじゃないのか?」
「僕は困ってるんですけど?」
「もう桃井は戻る気ないだろうし、お前もいいかげんあきらめたら?」
「冗談じゃない!」

修学旅行のバスから降りて、その後の学年集会も終わって、家への帰り道。
こんな会話、もう何十回もしているけれど、そのたびに千本木の哀しそうな目が僕に突き刺さる。
でも毎回同じ答えだけど、僕は男だし親友以上の気持ちは持てないよ。

「なぁあきら、お前とは10年一緒にいるけど、桃井と入れ替わってからのお前、すごく前向きになっていいと思う。」
「え?」
千本木は立ち止まると、僕の目を見ながら話し始めた。
「お前、昔からいつも俺のあとを付いてくるばっかりで、自分じゃ何もできなかっただろ。それが入れ替わってからは自分からバイトを始めるわ、学園祭で主役をこなすわで、以前とは比べ物にならないくらい積極的になって、俺自身がびっくりしてるんだよ。」
「そ、それは入れ替わったことがみんなにバレないようにとか、早く元に戻りたいからで…。」
「椎名だって今の桃井つまりお前だけど、今の方が女の子らしくなってよろこんでいるみたいだし、クラスの女子たちからもよく思われているし、お前にとって以前よりずっとよくなってるのをわかってる?」
「…う、うん。でも……。」
千本木の言っていることはわかる。でも入れ替わったままで暮らすっていうことは……。
「お前、またみんなから笑われたりバカにされたりする生活に戻りたいのか?俺だって親友のお前が以前のような目に遭うのは辛いんだよ。入れ替わって1年近くで、もうこの生活にも慣れただろ。大丈夫だよ。このままうまくやっていけるよ。今のお前なら。」
僕が困っている時みたいに、諭すように語りかける千本木。でも…。
「…できるわけないじゃないか!」

「僕が桃井さんとしてこれから生きていくとして、それじゃぁ今までの僕はどうなるんだよ。父さんや母さん、美羽、小学校や中学校の友達、楽しかったことや大変だったことの思い出、それら全部、今までの17年間を捨てるということなんだよ、千本木。」
「う…。」
しまった!そこまで気づかなかった…。
「あっ、お、おい……。」
俺は走り去るあきらを追いかけることができなかった。
あきらによかれと思って話したつもりだったが、結局傷つけてしまったのか……。
フッ。…だよな。
あきらが桃井になっちまったら、俺たちが一緒に遊んだり勉強したりした10年も捨てることになるんだな。
通り沿いの街路灯にもたれると、俺は空を仰いだ。
……待てよ。

「ただいまー。」
あれ、おじーさん。どうしたんだろう。
僕は居間に向かうと見慣れない人影が。
「あら、菜々子、お帰りなさい。今日まで修学旅行だったのね。テーブルに日程表があったから。私も今ドイツから戻ってきたんだけど、あのバッグなに?」
だ、誰?!

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