サイドストーリー

未来予想図II

投稿:もえじろ:2010年12月24日
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コミック8巻(予定) 56話と57話の間のストーリーです。

夏休みも残りあと少し。
あきらは昨晩一緒に宿題を片付けようと千本木に連絡して家で待っていた。
部屋をきれいに片付けて、鏡に写った自分の髪が乱れていないかもチェック。
あと少しで千本木に会えると思うと自然と口元が緩んでしまう。
小さい頃からずっと一緒にいたのに、なんでこんなにうれしいんだろう…。
そう自問しながら鏡に写る今の自分に苦笑した。

そろそろ来るかな?
窓を開け外の強い日差しに手をかざしながら来るだろう方向に目を向けると、かすかに小さな子供の泣き声が聞こえる。
ここからでは様子がよくわからないが、まだ若い母親と男の子のようだ。
気になり眺めていると、向こうから背の高い青年が現れる。

…千本木。

その二人に近づくと母親に話しかける。
千本木は泣きじゃくる男の子の頭を軽く撫でるとその場に膝をつく。

えっ!

男の子を肩車する千本木。
「……千本木が?」
あきらは思わず声に出した。
するとゆっくりと立ち上がり、千本木と男の子がなにか話している。
男の子は腕をその先の木の枝に伸ばすと、その手には大きな風船が握られていた。
母親は千本木に頭を下げている。
その一部始終を見ていたあきらも、よかったねとつぶやきながら小さく首を縦に振った。

《ピンポーン》

来た!

チャイムの音が鳴り止む前にあきらは階段を駆け下り、玄関まで迎えに。
「いらっしゃい!暑かったでしょ。」
千本木はいつにも増して笑顔のあきらを見上げると
「どうした? なんかうれしそう。そんなに俺が来たのがうれしい?」
「な、なんでもないっ!」
やばっ、とっさに後ろを向いて紅潮した頬を両手で押さえた。

お互い勉強はできる方なので、粛々と時間だけが流れていく。
そんな中、あきらはシャーペンの動きを止めると上目遣いに千本木を見る。

千本木って、どちらかと言うとクールで子供にはあまり興味はないんじゃないかなと思うけど、でもきっとお母さんが美人だったからなんだろうな。

ふふっと笑うあきらの様子に気づいた千本木があきらを問い詰める。
「お前なに思い出し笑いしてんだよ。俺が来た時もニヤニヤしてたし。」
「え、う、うん。あの……さっき千本木が風船とってあげたの見てさ、ちょっといいなぁと思って。」
「なんだ、見てたのか。」
「うん。窓から外を見てたらちょうど見かけて。…千本木って子供好きだっけ?」
「別に嫌いじゃないけど。なんで?」
「千本木って、そういう感じに見えなかったから…。」
「俺は子供にもお前にも優しいよ。」
「ま、またそうやって僕をからかうんだから…。」
あきらは一瞬で顔を赤らめると、千本木は笑いながらあきらの頭を撫でた。

《コンコン》
ドアをノックする音。
「は、はい、どうぞ。」
あきらは慌てて千本木の手を払い髪を整える。
ドアを開け入ってきたのは桃井母だった。

「千本木君、いらっしゃい。冷たいお茶をどうぞ。どう、宿題はかどってる?」
麦茶をテーブルに置きながら話す母。
「おじゃましてます。はい、もう少しで片付きます。」
「そう、それはよかった。」
話しながら、お茶と一緒に持ってきた大きめの冊子をあきらに差し出す。
「あきら君、はい。この前頼まれたもの。千本木君とどうぞ。」
「え?あ、はい。ありがとうございます。」

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「なに? アルバム?」
「うん。桃井さんが小さかった頃の写真。この前おじさんが見てたから、見せてほしいって頼んだんだ。」
テーブルの上のノートや参考書を片隅にどけ、二人で一緒にページを開いた。

「桃井さん、小さいときから可愛かったんだよね。」
「でもこの頃からすでに凶暴だったんだな…。」
「なんでこーなっちゃったんだろうね。」
「じーさんの影響じゃね?」
「…かもね。」
笑いながらあきらはアルバムのページをめくる。
「あっ、これ…。」
七五三だろうか。
着飾った幼い桃井が両親の間に入って手を繋いでる写真に目を止めた。
「この頃のおじさんおばさん、桃井さんと手をつないですごくうれしそう…。」
「…だな。」
ページをめくろうとした二人の手がぶつかる。
あきらはとっさに手を引っ込める。
ニヤつく千本木。
「み、美羽もこのくらい小ちゃかった頃は、よく一緒に遊んであげてたんだけどなっ。」
「なんだよ、お前だって。子供と遊ぶの好きだっけ?」
「んー、特に意識したことはないけど、よく美羽におままごとに付き合わされたなぁ。」
「なんだ、お前が美羽ちゃんに遊んでもらってたんじゃん。」
「あはは、そうかもしれない…。」
寂しそうに笑うあきら。アルバムを握る手がかすかに震えている……。
上原の家を思いだしてしまったのだろうか。
千本木はそんなあきらを察したのか、優しい口調で話しかける。
「お前も子供好きなんだろ。」
下を向いていたあきらは顔を上げた。
「大丈夫。今は料理もお菓子作りも得意だから、小ちゃい子にも喜ばれるんじゃないか?」
「う、うん、そうかな……。」
千本木の穏やかな表情に、あきらの顔にも少しずつ笑みがもどってきたようだ。
「じゃぁ俺は、おまえとおチビちゃんでお菓子ができあがるのをダイニングで待ってるよ。お前らが楽しそうに作ってるの見てるだけで俺もうれしいし。」
「あはは、じゃぁ僕もがんばって、……え?」
急に頭を垂れて押し黙る。
「……それって、僕と千本木の子……ってこと?」
千本木はニコニコしながらあきらを見ている。
「お、お前ナニ考えてるんだよ!」
「あきらとの将来。」
「バッ、バカじゃないの!?」
「そうか? 俺けっこう本気だけど。」
「………。」
「まぁ別に、今すぐじゃないけどな。」
「あああ、当たり前だろっ。」
千本木のいつもの話術にあきらは顔を真っ赤にして後ろを向いてしまう。
その千本木はやれやれと苦笑いするしかなかった。

「で、お前はやっぱりパティシエ志望なの?」
千本木の問いかけに、あきらは背中を向けたまま答える。
「…将来はそっちに行きたいかなと思うけど、今は……。」
「今は?」
「………今は千本木と…。」
「俺と?俺となに?」
「…千本木と一緒がいい……。」
「あきら……。」
予想外のあきらの返事に言葉が続かない。
うつむいたままのあきら。
あきらにとっては、精一杯の返事だったのだろう。
「そうだな。今も昔も、…これからもずっと一緒に。」
肩を抱き寄せ、あきらの耳元で囁く。
その言葉にあきらはちょっと考えてから意地悪く答える。
「…千本木が他の娘にちょっかい出さなければだな!」
あきらの反撃にも千本木は動じることなく、ふっと笑いながら
「俺がそんな簡単にバレるようなヘマすると思ってるのか?」
ぷぅっと頬を膨らませて、さらにあきらが反論する。
「千本木、綺麗なお姉さん好きだもんな。」
「そう、だからあきらが一番綺麗だったら他の娘にはいかないよ。」
「千本木だって一番カッコよくないと僕だってわからないよ。」
「それは大丈夫。あきらは昔から俺以外のところにはいかないから。だろ?」
「……はい。」
やはり千本木には口ではかなわない。あきらは小さくうなずいた。

しばらく沈黙の後、千本木は前髪をかき上げ窓の外を見ながら話し始める。
「さっき風船をとってやった子な、昔のお前に似てたんだよ。風船握ってありがとうって言った時の笑顔、昔のお前そっくりでびっくりした…。」
あきらは驚いて顔を上げると、そのあきらの顔を見ながら千本木は静かに話しを続ける。
「今すぐじゃないけど、将来このアルバムみたいに思い出をいっぱい飾りたいな。」
西に大きく傾いた陽を浴びて、千本木の髪がさらに金色に輝く。

ああ、千本木ってこんな優しい表情見せるんだ。……初めて見た。

「…うん、そうだね。」

「あきら…。」
その声になんの躊躇もなく、あきらはそっと目を閉じた……。

「宿題もうちょっとだな。残りは明日俺んちでやるか?うるさい姉貴たちもいないし。」
「うん、いいよ。お昼食べたらそっち行くよ。」
玄関を出て、門の外まで千本木を見送る。
その後ろ姿が見えなくなるまで、あきらは手を振っていた。
明日もまた会えるのを楽しみにしながら……。

もともと7巻48話のエピソードを見た時に「コレだ!」とひらめいたんですが、そのままお蔵入りしてました。。
それが 8月 10月 12月 と5ヶ月もかかってやっと日の目を見ました(^^;;
10月のブログでも書いた通り、このストーリーは私が考える二次創作の重要な一場面になりますが、正直バッドエンドになります。
ですから今回はせめてもラブラブな雰囲気を出したいなと描きました(^^)
なんか思わせぶりな後書きですが、いいなと思われましたらぜひ 拍手 をお願いしますね(^^)

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いただいた感想一覧

もえじろ  投稿日時 2011-1-8 11:07
みけきんぎょさん、こちらもありがとうございます☆

このお話はラブラブ♥ですけど、二次創作の一部になると
このパートは読むのがちょっと辛いお話になっちゃいます。。
そしてさらに険悪になってしまい、千本木が、、菜々子も、、、
もちろん椎名も巻き込まれて、あきらはどう決心するのか!?
という展開になる予定です。

まだ構想だけでストーリー化できる状態じゃないですが
着々と考えていますので、ちょっぴり(^^; ご期待ください。
みけきんぎょ  投稿日時 2011-1-8 1:12
もえじろさんこんばんわ
なんだか千本木が優しい笑顔であきらを見てる絵がそのままで…。
ほんわかしますね
あきらの将来とか少し前に進む感じが原作とも重なるようです。
でもバッドエンドなんですね〜。
あきらの子供のころに似てる…千本木も男の子のころのあきらを忘れてるはずないですよね。
続き気になります。
ただ、あきらが昔と違って何があっても前向いて進むようになった、
強くなった気がするので、
不幸にはならないんだろうな〜とは思います。
とりとめないコメントになってしまいましたが
本当に続き楽しみにしてます!
もえじろ  投稿日時 2010-12-26 23:07
ゆささん、いつも感想ありがとうございます。

このストーリーの意図する部分を的確に解説していただけてうれしいです(^^)
正直、プロットの段階ではラストがうまくまとまっていなかったのですが、なんとかキレイにできたかなと(^^;

そしてゆささんのお気に入りのパートですが、実は私もなんですね。
ですから何度も何度も書き直してやっと落ち着いたんですが、もしかしたらもっとうまい表現方法があるんじゃないかと今も思ってたりします。。
でも千本木の夕日に輝く髪と優しい表情で、あきらの気持ちをゆさぶったのは成功してるんじゃないかなーと思います(^^)
その後の2行は過剰演出ですね(^^;;

もちろん、二人の子供は美形ってのは、異論無し!ですっ(^^)/
ゆさ  投稿日時 2010-12-25 1:00
もえじろさん、こんばんは☆

今回は《アルバム》から過去の思い出を、《子供》から未来の夢を描いたすてきなお話ですね(^^)

後半の「しばらくの沈黙の後、〜」から「『…うん、そうだね』」あたりの描写が私のお気に入りです。
いいですね、この穏やかであったかい感じ。

二人の子供だと、さぞかし美形で将来モテモテかも(^^;と想像したゆさでした☆