アフターストーリー 幸せへのプロローグ
第1話 途方もない夢
2学期が始まって3週間。
あきらとの想いを遂げるため、千本木は入れ替えクンを一刻も早く直そうと必死に頑張っていた。
しかしその作業は一向に進まず、その顔には焦りの色が滲んでいる。
やはり高校生が理解できる代物ではない。
それでもあきらとの夢を諦めるわけにはいかない。
そんな千本木を、あきらは部屋の外から眺めることしかできなかった。
「はぁ、やっぱりわからない…。」
疲れ果てて机に突っ伏す千本木。
その姿を見て、あきらが後ろから声をかける。
「千本木、大丈夫?」
「…あぁ、あきら大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ。」
「ごめんね、千本木。僕と桃井さんのために。」
「いや、俺のためでもあるんだから…。」
強がって返事を返すものの、その目的がいつ叶うかは目処さえたたない。
「うん、がんばってね。」
あきらは椅子に腰掛ける千本木の後ろから腕を回して、そっと身を寄せた。
「…なぁあきら、入れ替わったらまた同じことしてくれよな。」
あきらの回した両腕をつかまえて千本木は言う。
「あはは、じゃぁ早く入れ替えクン直さないと。」
「あきら!」
千本木はあきらの腕をグッとつかみ、あきらの顔を自分の前に向けさせた。
「せっ、千本木!」
「……ごめん、やっぱりムリだ。」
千本木の沈んだ声に、あきらはつかまれた腕を外し顔を伏せ部屋から出て行く。
「あっ、菜々子ちゃ…。」
部屋から飛び出してきたあきらに、椎名は声を掛けようとするが……。
そのあきらの悲痛な表情からなにがあったのか想像がつく。
「…私にも何か手伝えることないのかしら。」
椎名が壁にもたれて考えていると、菜々子が椎名に気づき歩きながら声をかける。
「椎名、どうした?」
「うん、千本木君があんなにがんばっているのに、あたしはなにもできないのが悔しくて…。」
「そんなに気にするな。誰にだって得手不得手はあるんだから。」
「でも、あたしももっと3人の力になりたい!」
椎名の訴えに、菜々子は優しく笑みを含みながら答える。
「ありがとう椎名。ったく、じーさんの記憶が戻れば早いんだけど。
まてよ?いや、これはちょっと……。」
「何?いいアイデアが浮かんだの?」
「…椎名に頼みたいんだが。」
「何?あたしにできることならなんでもするから言って!!」
…仕方ない。今は俺の気持ちはあとにするか。
菜々子は椎名に耳打ちすると、椎名はニッコリと微笑む。
「うまくいくといいね。」
「いかなかったらじーさんの命はねー。」
「おじいちゃん、何か思い出しませんか?」
耳かきをしながら椎名は萬造に尋ねる。
しかしそんなことはお構いなしに、萬造は椎名の膝の上で夢見心地。
菜々子は壁際に身を潜めながら様子を伺うが、そのイライラは最高潮のようだ。
「真琴ちゃん、もうちょっと奥を…。」
そう言いながら椎名の膝に手を置き触る。
「ジジィ!このヤロー!!」
菜々子が壁際から飛び込んで来ると、椎名が驚いて膝を跳ねあげてしまった。
プス……
耳かきが萬造の耳の奥まで突き刺さる。
と同時に電気が流れたかのようにピキッと身体を硬直させた。
「やばい!じーさん、大丈夫か?」
菜々子はぐったりとした萬造を起こし、耳かきを引き抜いて身体をガクガクと揺さぶる。
しばらくすると、萬造は目を覚ました。
「おぉ、菜々子、どうしたんじゃ。せっかくいい気持ちで寝ていたのに。」
「寝てた?ふざけるな!今まで椎名の膝枕で耳かきしてもらってたのに!!」
「え、真琴ちゃん?」
萬造の様子の違いに気付いた椎名が、すかさず問いかける。
「おじいちゃん、入れ替えクンって知ってる?」
「知ってるもなにもわしが作った大発明じゃが、なにか?」
「やったー!!」
状況がよくわからない萬造をしり目に、2人はハイタッチで喜んだ。
記憶の戻った萬造は千本木を助手に迎え、入れ替えクンの修理を行うことに。
「千本木君、この記憶抽出回路からのデータをキャッシュするコードをデバッグしてくれ。」
「はい。」
「いやー、千本木君のおかげで入れ替えクンの安定度が向上してうれしいよ。
どうだ、このままわしの助手として働かないか?
ノーベル賞の賞金ががっぽり入ってくるから心配ないぞ!」
「いいえ、お断りします。」
千本木は速攻で答えた。
「………まぁ、よかろう。
今週末には完成するから、上原君にここに来るように連絡しておいてくれ。」
「はい。」
「もしもし、あきら?
やっと入れ替えクンが完成するから週末の予定あけといてくれ。
俺の力がもっとあればもっと早くできたんだが、今まで待たせてごめんな。」
「ううん、千本木は一生懸命やってくれたよ。ありがとう。」
「じゃ、俺もうちょっと作業していくから。」
「うん、千本木あんまり無理しないでね。」
「ああ、じゃ、お休み。」
「お休みなさい。」
「それじゃぁ、これと指輪も持っていかないと。」
あきらは電話がかかってくる前に眺めていたネックレスを、いつのまにか握りしめていた。
そのネックレスを丁寧に机の上に置くと、今はサイズが合わなくてはめられない指輪を手に取り愛おしそうに見つめる。
「…もうちょっとだね。」
10/22夜、続きを公開予定です(^^)
【第2話 最後の入れ替わり】
【最終話 自らが臨んだ未来に】
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