アフターストーリー 幸せへのプロローグ
最終話 自らが臨んだ未来に
バキバキバキ!!!
それは菜々子が入れ替えクンを壊し始めた音だった。
「お、おい菜々子、なにをするんじゃ!」
萬造が声をあげても菜々子は手を止めない。
「お前らも手伝えよ。この機械さえなけりゃまた戻る事もないからな!」
菜々子の呼びかけに、千本木はあきらを抱いたまま小声で話す。
「入れ替わりが成功したら1時間後に起爆装置のスイッチが入るように仕込んでおいたけど、この様子ならその必要はなさそうだな。」
「えー?ちょっともったいない気がするけど…。」
あきらは顔を上げて答えた。
「わ、わしのノーベル賞を壊す気か!」
萬造が菜々子の腕にしがみつく。
しかし菜々子はその腕を振り払うと、萬造は飛ばされ入れ替えクンの電源ケーブルを引きちぎった。
ドーーーーーーーン!!!!!
「あーあ………。」
あきらは粉々に壊れた機械の破片のひとつを手に取った。
そこには菜々子の身体になった自分の姿が映る。
「もう、戻ることはないんだね。
これが今の僕の姿。
…さよなら、以前の僕。
……さよなら、上原あきら。」
「なぜ『さよなら』なんだ?」
あきらのつぶやきを聞いていた千本木が気配に気づき、問いかける。
「お前『僕 男だから』って言ったよな。
言ってることおかしいだろ。」
千本木に諭され、あきらは小さく笑顔を見せる。
「…そうだね。
今までの僕を忘れることはないんだよね。
僕は僕らしくいればいいんだよね…。」
「ああ、あきらはあきら。今まで通り、何も変わらない。」
「うん。」
「…でも正直驚いたな。
まさかお前にあんなに怒られるなんて。
本当にお前強くなったよ。
以前のお前とは比べ物にならないくらい。」
「それは桃井さんや椎名さん、そして千本木がいつもそばにいてくれたから…。」
「お前、男だったらそんな簡単に涙ぐむなよ。」
「それは無理。だって身体は女の子だもん。」
「お前なぁ!」
すっかり泣き笑いのあきらの身体を抱き寄せ、
千本木も声をあげて笑った。
そんな二人にもおかまいなしに、菜々子があきらに声を上げる。
「上原!お前最後の仕事残ってるだろ。椎名、手伝ってやってくれ。」
「はーい!」
椎名は二人に、今はもう迷いのない笑顔で声をかける。
「お帰りなさい、菜々子ちゃん。」
「た、ただいま…。」
「千本木君も菜々子ちゃんが戻ってよかったね。」
「ああ、椎名さんも落ち着いたでしょ。」
「あ、あの上原君、あたしのこと上原って呼んだけど、まだ入れ替わる前と混乱してるのかな…。」
「間違ってないよ。ね、上原君。」
「え……。」
「ふふ、あたし気づいてたの。」
いたずらっぽい笑顔をあきらに向け、さらに話を続ける。
「でもいい、あたしが知ってるのは今の菜々子ちゃんと上原君だよ。」
あきらは一瞬驚きの顔を見せたが、ほっとしたのか小さくうなずいた。
「菜々子ちゃん、上原君の家に行って話をしなくちゃならないんでしょ。
それでね、上原君に手伝うように頼まれたの。
でも、あたし何すればいいのかな?」
「んー、前も千本木と気まずい時に椎名がいてくれたよね。
あの時とってもうれしかった。
だから今回もうまくいかなかったらそばにいてほしいな。」
「えー!菜々子ちゃん、そういう悪いこと想像するのやめようよ。
大丈夫!きっとうまくいくよ!!」
「あはは、そうだね。やっぱり椎名がいてくれてよかった。」
あきらは椎名にとびっきりの笑顔を返した。
その大切な親友のために。
「そうだ、椎名は両親やお兄さんとケンカしたり気まずい時ってどうしてる?」
「え?あたし?えーと、そうねぇ…。
あたしならみんなの好きなお料理を作って、食べながらあやまっちゃうとかかなぁ。」
「それだ!!」
「……つまり、1年前に2人は入れ替わってたと。」
「…はい。」
「そして、元の姿に戻ることはできないと。」
「…はい。」
あきらの父はソファにもたれ、天井を仰ぎ見ながら大きくため息を吐いた。
母はうつむいたまま、身動きすらしない。
あきらと菜々子は上原家で自分たちが入れ替わってしまったことを説明した。
「それで、先日椎名さんを迎えてパーティを開いた時に、昔話ができなかったのか。」
「…はい。」
菜々子が申し訳なさそうに返事をする。
「…桃井さんのご両親はこの事は知っているのか?」
「はい、俺…僕の祖父が大変な事をしてしまい申し訳ありません。
帰国してお詫びに伺いますと連絡がありました。」
「帰国?ご両親とも海外で働いてるのか?」
「はい、外交官で今はドバイにいます。」
「が、外交官?」
上原の両親は驚きのあまり、思わず背筋がピンとのびる。
「そそ、そうか、外交官か…。
しかしご両親がいないんじゃ話にならないな。
お前たち二人だけじゃ解決できないだろ。」
父がそう話すと、以降お互い声を発することができずしばらく沈黙が続く。
すると遊びから帰ってきた美羽が部屋に入ってきた。
「ねぇお母さん、お腹すいた。何かない?」
「そうだ、僕、煮っころがし作ってきたんだ。
みんなに食べてもらおうと思って。」
「…美味しい。これ、あなたが作ったの?」
母が驚きの声をあげる。
「うん、母さんの作る煮っころがし大好きで、小さい時から台所で作るのをよく見てたんだ。
いつか自分でも作りたいなと思ってたんだけど、こういう形で食べてもらうとは思わなかった…。」
しかし両親とも戸惑いの表情を浮かべるだけで会話が続かない。
「ねぇ母さん、母さんの得意料理はもっといっぱいあるよね。
教えてほしいんだ。
僕ね、将来料理関係の仕事したいなと考えてるんだ。
だから母さんの料理を習って少しでも将来に備えたいんだ。
父さんには僕の作った料理食べてほしい。
父さんに出来上がりの感想を聞きたいんだ。」
「父さん母さん!
外見は変わっちゃったけど、僕は上原あきら、二人の子供です!!」
あきらの強い言葉に二人とも小さく身体を震わせると、しばらくして父が顔を上げた。
「……あきら、父さんは味にうるさいのは知ってるよな。いいのか?」
続けて母も口を開いた。
「…あたしも教える時は厳しいわよ。いいの?」
「父さん、母さん……。はい!お願いします!!」
「…あきら、まさかお前が女の子になるなんて夢にも思わなかったが、それより、この1年でこんなに自分の意見を言えるようになったことに驚いている。
以前は妹にもバカにされることもあったのに。
しかもこの状況で将来のことまでも考えてたとはな。
正直まだ迷いはあるが、これからのことは桃井さんのご両親と話しあっていこう。」
父はあきらに向かって一気に話すと、今度は菜々子の方に向きを変える。
「…そして桃井さん。」
「は、はい!」
「君は身体を鍛えるのには熱心だが、もうちょっと勉強にも力を入れてほしい。」
「そうねぇ、今の成績じゃ椎名さんとのお付き合いは考えさせてもらいましょうか。」
母もすかさず相づちを打ちながら会話に入る。
「えぇ!は、はい、頑張ります!!」
菜々子は冷や汗をかきながら返事をするのが精一杯。
その横であきらはぷっと吹き出すと、にこやかな表情の両親に笑顔を返しそのまま深々と頭を下げた。
両親も入れ替わりをなんとか受け入れたようで、二人はあきらの部屋に上がり、やっとひと息ついた。
「桃井さん、エラいことになっちゃったね。」
「まさかお前の親に椎名との付き合い止められるとはな。」
「でも頑張ってるところ見せれば大丈夫だよ。」
「ああ、今回はお前頑張ったもんな。次は俺の番だ…。」
「…なに?」
「いや、さっきのお前、なかなかカッコ良くて男っぽかったなと。」
「だから僕は男だってば!」
「見た目は清楚で可憐ではかな気な少女だけどな。」
「え?それって、あはは……………
その後、桃井家は父がドバイから日本にむりやり異動することを決め、日本に戻ってきた。
さっそく両者で話し合い、これからは家族ぐるみで付き合うということになった。
そこで今回は初めてということで、あきらと椎名とでとっておきの料理をみんなにふるまうことに。
「えと、じゃぁこれを盛りつけてと。
椎名、そっちの塩加減見てくれる?」
「はーい!
菜々子ちゃん、やっぱり今日はいつもより気合い入ってるね!」
「うん、父さん母さんへの初お披露目だからがんばらないと…。
そう言えば、千本木に桃井さんの勉強を見てもらってるけど、大丈夫かな……。
あっ、美羽!またつまみ食いして!!」
学校の授業も終わった放課後、教室の片隅でいつもの4人が集まって話をしていた。
「それじゃぁ今度の日曜日、駅前に9時集合ね!」
あきらが声をあげる。
またネズミーランドに行く予定が決まったようだ。
「椎名、今度はコケるなよ。まさか平らなトコでコケたとはな。」
「わかってるよぉ。」
呆れぎみの菜々子に、椎名が顔を真っ赤にして答える。
その椎名を助けるようにあきらが言葉をかけた。
「あはは、大丈夫。その時は僕がまたお姫様抱っこで運んであげる。」
「…あきら。」
千本木があきらに顔を寄せ、耳元で囁く。
「ニューコタニのケーキバイキング、いつにする?」
「あ、忘れてた。えーとね…。」
秋風も吹き始めた夕暮れ、学校の帰り道を4人は腕を組みながら歩く。
日常よくある風景。
しかし、この4人の1年前は…。
以前はなんでも気を許せる友だった。
それがあの日をきっかけに、友は今、最愛の人となり隣で笑っている。
もう戻らないと決めた 僕と彼女の××× は永遠だと信じて、
優しい笑顔の彼と共に歩んでいこう。
と、あきらはその想いを千本木に微笑みで返した。
アヴァルス9月号が発売された時のブログの感想で書いた通り、ラストがもの足りなかったので「では自分で描いてしまおう」と思い立ち、2ヶ月が過ぎました。
そして完成したこのお話は、できるだけ原作の世界観を壊さず、でも私が見たかったシーンを盛り込みたくて、こんなボリュームになってしまいました。。。。
このお話にはアドバイザーとして「心理描写の魔術師」ゆささん にも多くのアドバイスをいただきました。
またプロを目指している えびちょさん には、お忙しい中イラストを寄稿していただきました。
お二人には感謝申し上げます。ありがとうございました。
もちろん、このステキな漫画を10年にも渡って連載された森永先生と編集のおじいちゃん、お疲れさまでした。
この漫画がなかったら私は小説を書くなんてことはなかったと思います。本当にありがとうございます。
ぜひぜひ、みなさんの感想をお聞かせくださいませ。
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いただいた感想一覧
感想ありがとうございます。
後書きにも書きましたけど、雑誌掲載時の最終話が満足できなかったので、私の思いの丈をこの小説に注ぎ込んでみました。
コミック1〜3巻あたりのエピソードを織り込むことで、ストーリーの一体感を表せたかなと思いますけど、いかがでしたでしょうか(^^)
千本木♥あきらが一番大事ですが、椎名や菜々子ももちろん、あきらの両親にも理解してもらえて、二人には幸せになってほしいなと願うばかりです。
この漫画は最高に面白いですよね!ただ7巻で入れ替わらなかったし、このままあきらと千本木がくっつくラストを期待していたというのもあり、ラストの二次創作を探していました。そしたらもえじろーさんのHPを見つけました。
もえじろーさんの小説では、ラストで2人が幸せになるだけでなく椎名に本当のことが伝えられて、あきらの両親にも納得した形で入れ替わったことをわかってもらえたのでとてもすっきり読むことができました。
それも漫画の設定を最大限に生かした形だったのでとても満足でした。
最後に千本木がニューコタニのケーキバイキングの予定を聞くとこなんか千本木らしいなぁー笑
いえいえ、こちらこそステキなイラストをいただけて感謝しております(^^)
もし機会がありましたら、またよろしくお願いしますね。
って、忙しいから無理かしらん。。(^^;
1枚しかイラストだせず申し訳ない気持ちでいっぱいです><
素敵なものがたりありがとうございました!
ほんの少しですが携われたことを嬉しく思います。
ハッピーエンドバンザイ!!!
あきらが両親をどう説得するかは、原作でどう表現するのかなーと思っていたので、それがなかったのが残念で、自分で描いちゃいました(^^;
> ちゃんと息子の精神の成長を喜んでくれている…って、あきらは本当に愛されていたんだな、と思います。
両親も単に「仕方ない」とあきらめるだけじゃなくて、プラスアルファのあるモノにしたかったんです。
なので、ここをご理解いただけてうれしいです(^^)
まぁ、二人の娘と息子を、どう呼ぶのかが両親の悩みかもしれません(^^;
それは私にもわかりません(^^;;
いえいえ、ゆささんがいなかったらこの作品は完成していませんでした。
> 私のお気に入りは、最終話のあきらが壊れた機械の破片を手に取るシーンです。
ここはゆささんにアカが入ったところですね(^^;
あきらが「自分」に迷いを抱く導入部分なので私も思い入れがあるシーンですが、ゆささんのアドバイスでそれがより鮮明になりました。
ここだけでなく多岐に渡り、表現力の乏しい私に適切にアドバイスいただきまして感謝に耐えません。
本当にお世話になりましたm(__)m
タイトルは、まぁ、、いいか(^^;
けっこう気に入ってますし(^^)
なんだかとっても幸せです…!
こんな未来も、きっとあったと思います(>ワ<)
上原家に真実を話す場面、とても素敵でした。
父ちゃん母ちゃん良い人だー!良い家族だー!って。
ちゃんと息子の精神の成長を喜んでくれている…って、あきらは本当に愛されていたんだな、と思います。
これからも、あきらも菜々子も、上原家にとっては娘と息子、変わらないんでしょうね。
素敵な物語をありがとうございました♪
予告通りちゃんと仕上げたもえじろさんはエライ!
私のお気に入りは、最終話のあきらが壊れた機械の破片を手に取るシーンです。
この何気ないあきらの行動が、切なくっていいな〜と思います。
タイトルの「プロローグ」は、これから幸せな未来が始まる、まだまだ続くんだってことで、これはこれでいいんじゃないかな?
えーとそれから、ストーリー構成の面でたいしたアドバイスをしてませんので、私、あまりお役に立ってないですよ(^^;
「心理描写の〜」は言い過ぎですので……(^^;;